たまに、本当にすごくすごくふいに、どうしようもなく泣きたくなる時がある――。





「え、え、どうした?」


普段はマイペースで何事にも動じないような彼が、珍しくおろおろと慌てている。


そりゃ、そうだ。

ソファに二人で腰掛けてバラエティー番組を観ていただけなのに、突然彼女が泣き出したのだから。


「っ、……ひっ、……」


泣いてばかりで口から出てくるのは嗚咽だけ。そんな私に呆れたのか、立ち上がってどこかへ行ってしまった彼。

隣からあたたかさが消え、寂しさからくる涙が溢れ出す。


「まだ止まらねぇのか」

「……〜っ、」


顔を上げると、彼が眉を下げて心配そうに顔を覗き込んで、バスタオルを差し出してくれていた。

そこは普通ハンカチだろう、と心の中で突っ込んでみたけれど。そんな抜けている所がなんだか彼らしい、と勝手に納得。そして安心。

バスタオルを受け取ってごしごしと涙を拭いた。


「目ぇ痛くなるぞ」


普段ののほほんとした雰囲気ではなく真剣な瞳で、私をじっと見つめて一言。

彼に言われた通り、痛くなるのが嫌だから。今度はそおっと涙を拭う。そしたら、彼が少し目を細めた。


「何も言いたくねぇなら言わなくて良い」

「ん」

「だから今のうちにいっぱい泣いとけ」

「……っ、」


そう言って、私の頭の上に手を乗せて。よしよし、と子供をあやすように撫でてくれる。


彼の手は彼そのもの。

日だまりのようにあたたかくて、全てを包み込むくらいおおらかで、やわらかな雰囲気に癒される。


「ふぇっ、うー……」

「泣け泣け」


彼の腕に支えられながらその手が私の頭をポンポンと一定のリズムで撫でる。その心地よさに、私はいつの間にか意識を手放した。





別に、悲しいわけじゃない。悔しいわけじゃない。辛いわけじゃない。

ただ無性に泣きたくなっただけ。


しいていうならば、


「幸せすぎて」

「なんだそりゃ」


ふふっと笑う彼に、私もふふっと笑い返す。

こんな些細なことが当たり前な今なのに。ふと、それが消えてしまうんじゃないかと、来るかもわからない未来に怯えた。


「幸せなの。ただ二人で笑ってるだけで、幸せなの」


幸せすぎるの。

そう言葉を足せば、またふふっと彼は笑う。そしたらやっぱりふふっと笑い返す私。


「じゃあこれからもいっぱい泣け」

「え?」

「これからもずっと一緒にいんだからずっと笑うだろ。そしたらずっと幸せだろ!」


彼がにかっと笑うから。

それがとても愛しいから。




涙腺を壊す魔法



また涙が溢れそうだ。





title:コランダム



120218


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