07 食事は基本

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小平太くんと長次くんに手を繋がせ、長次くんと挟むようにして小平太くんの手を握る
今日ほど徒歩五分圏内にあるスーパーの存在に感謝したことはない

「なぁなぁ!あの塊はなんだ!?」
「さっきも言ったけど、車。」
「?さっきはもっと小さかったぞ?」

説明が面倒
詳しいことまで知らないし

「さっきのは乗用車で、今のは中型トラック。」
「クルマじゃないのか?」
「車にも種類があるの。ちょっ、止まって。」

赤信号を渡ろうとする二人を止めれば、二人揃って不思議そうな顔を向けてくる

・・・本当に知らないの?
特に源氏物語を選択する長次くんは、知らないほうが不思議

「あれが赤くなってるときは、渡れません。渡ると、車にひき殺されます。」
「殺されるのか?」

それは嫌だなと笑う小平太くんに、頷く長次くん
わかってるの?わかってないでしょ?

「青になったから、渡るよ。」
「なんでしましまなんだ?」
「横断歩道だとわかりやすくするため。」
「ここ渡らないとどうなるんだ?」
「ひき殺されるかクラクションを鳴らされるか・・・小平太くんが生きても他の人が事故で死ぬ。」
「・・・そうか、それはよくないな。」
「色々、覚える必要がありそうだ。」

教える必要がありそうでげんなりしますよ。まったく

自動ドアが開いた瞬間、小平太くんは私の手を振りほどき
長次くんと一緒に後ろに跳んだ

「・・・三歳児にしては無駄に高い瞬発力だね。早く入るよ。」
「いやだ!」

なにが嫌なんだと自動ドアから離れれば、ドアがゆっくりと閉まっていく
それにまたびくりとした二人に吹き出してしまった

「あはははは!なぁにビクついてるのよ。別に危険なものじゃないからおいで。」
「本当か?本当に危険じゃないのか?」
「・・・見たことがない、戸だ。」
「あのさ、二人ともまだ三年しか生きてないんだから、知らないものは沢山あるの。」

こんなことを三歳児に言って理解されてもおかしい感じがするけど

「違うぞ!わたしはじゅう」
「小平太。」
「っ、すまん長次・・・」

仲いいな二人とも

「ほら、皆待ってるんだから行くよ。」

小平太くんの手をひけば自然と長次くんまでついてくるので楽だ

買い物かごをかけて、野菜売り場に

豆腐が一丁40円という安さ。安売りで10円になる。意味分からない
油揚げも昨日なくなったし、ほうれん草とか白菜、キャベツに人参など、色んな料理に使える野菜を片っ端からかごへ
このスーパーの野菜の安さは異常。肉や魚は普通なのに

「鰆安い。ならアクアパッツァか。」

菜の花もあるし、トマトもある。浅利は冷凍してあるから問題なし

「あくあ、なんだそれ。」

食えるのか?と首を傾げる小平太くん。食べれないものをわざわざ作るわけないよね?
帰ったら料理本見せようと決め(各月ごと全12冊)、たべれるよ。と返した

「鶏肉安い・・・唐揚げとか、」
「わたし唐揚げ好きだ!」
「唐揚げは知ってるのね。」

油の後処理とか、ハンバーグよりうんと面倒だろうに
なんで唐揚げは知ってるのか。前の保護者が好きだったのか

「唐揚げ食べたい!」
「・・・もそ。」

・・・も、そ?もそって言った?
もそってどういう意味?喃語?

「いいけど。」

三枚入りを二パック。これで足りなかったらどうしよう
食費嵩みそう。自分が少食なだけに吃驚するほど

「卵と、ハム。ベーコンブロックに、チーズ。」
「あれなんだ?」
「・・・ああ、お惣菜コーナーだね。出来合いが売ってるけど、私好きじゃないから買わないよ。」
「好き嫌いか?」

ダメだぞ!と言う小平太くんに、お惣菜のポテトサラダを一パック食べさせること決定

くい、と服をひかれ、どうした?と長次に目線をあわせる

「・・・ない。」

なにが。

「小平太、いつもの見たか?」
「・・・そういえば見てないな・・・・・・」

揃って首を傾げた二人がガサガサしてて、ツルツルしてて、コンソメとかのり塩とかあるやつ。との説明をいただき
それはお菓子だね。とお菓子通路に連れていけば、これだ!と指差した小平太くんに食べたいの?と尋ねる

「いらん!ただ、昨日いつもなに食べてるか聞いただろ?これ食べてたんだ。」
「・・・言っておくけど、これは食事じゃないからね?」
「でも一日一袋だったぞ?」

・・・何その高カロリー摂取情報
お菓子の食べすぎは大人でもよくないのに。・・・なんでもよくないか

「一週間に一袋なら、まだ、いや、どうなの?」
「違う。」

何が?と長次くんをみれば、寄せられた眉に心配になる

「何が違うの?」
「これ一袋を、六人で食べてたんだ。」

なんとなくわかってしまったのは、昨夜のこの子たちの傷をみたせいだろうか

「・・・大丈夫。ちゃんとしたご飯を食べさせてあげるから。」

一日。あの食事量の六人がお菓子一袋を分け合う?
ひもじいどころじゃない。ふざけるなと殴ってやりたい

「わたし、最初から***のとこにいきたかった。」

私は悪くないのに、なぜか謝りたくなった


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