25 時間を頂戴

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非科学的だろうか人体の神秘だろうか

自分の目で見た不可解は、受け入れるべきだ

見て尚否定なんて、自分が許さない


考えるのは、夜。子供らが寝静まったら、考えよう




伊作くんが泣いてる。ずぶ濡れで
風邪でもひいたらどうするんだろう?
早くタオルで拭いて、服かえて、温かいココアを作ってあげて

伊作くんだけだと小平太くんが騒ぐから、小平太くんたちにもちゃんと作ろう

今日からゴールデンウイークだから、どこか出掛けて、偶には外で遊ばせて
太陽光でビタミンDを作ってもらわないと


「伊作くん。」
「っ、は、い、」
「5月5日はこどもの日っていってね、動物園や水族館が無料だったりするんだ。」

震えながら首を傾げた伊作くんに、はたしてどんな顔を向けるべきなのか
いや、今の状況で向けるべき顔なんてない

「どちらか多数決で決めて、行こうか。」

ハテナばかり浮かべて不安そうに周りを見回す伊作くんが、怖ず怖ずと口を開いた

「どーぶつえん、て・・・なん、ですか?」
「世界各国の動物がちょっとづついるところ。」
「スイゾクカンは、」
「世界各国の海の動物がちょっとづついるところ。」

どちらも興味ないから、どちらも同じような説明になった
伊作くんは、やはり首を傾げて賑やかそうですね。と呟く

「・・・伊作くん、ご飯食べた?」
「詰め込みました、」
「そう、」

ならココアはデザート仕様で甘く作ろう

シャワーを止めて、服を脱ぎ始めた
伊作くんがぎょっとしたけど、無視
脱いだ服をその場に放置して、びしょ濡れの伊作くんも全裸に剥く
顔を真っ赤にした伊作くんをバスタオルでくるみ、自分もざっと水気を拭いてバスタオルを巻き、風呂場からでた

「***さ、ん、ひとりで歩けます!」
「じゃあおろすね。」

リビングに入ってすぐに伊作くんをおろし、寝室にあるチェストから服を引っ張り出して着た
子供らと何か話していた伊作くんも、少しして自分で着替えだす

ちらりとテーブルに視線を向ければ、伊作くんの皿以外は殆ど減ってない
作ったことある朝食だから、口にあわないってことはないと思う

ケトルで湯を沸かし、マグに無糖ココアと練乳、お湯をそそぎ入れ
カチカチと丁寧にかき混ぜた

トレーにのせた湯気たつ7つのマグは、いくつかまだ余韻でくるくる回る
そのうち6つを、最早定位置となったテーブルに置き、かわりに伊作くんの食器を下げた


5人の視線が痛い。


火傷しないようにココアを飲みながら、その5人と見合う

「・・・・・・なに?」

そして返ってくる無言
服を着た伊作くんはきょろきょろしながらココアを見てこちらをみた

「これ、なんですか?」
「ココア。甘くて美味しいよ。」
「***、」

か細い声。普段の元気はどこいったんだと尋ねたくなるような、弱い声
小平太くんが、長次くんの影からこちらを伺う
乾ききらない涙の筋に、また涙が流れた

「***は、わたしたちを、す、てる・・・のか?」
「どうしてそう思うの?」
「っ、」

ひゅっと息を飲み、何も言わなくなってしまう

今のはこちらが悪かったからいいけれど
攻撃的なのは、今は絶対ダメだ


「時間を頂戴。」

あ、美味しい。と両手でマグを持ってココアを飲み始めた伊作くんが、ちょっと可愛い

「1日。今日1日考える時間。嫌なら、出て行ってもらってかまわない。」

我ながら卑怯だ。現時点で、彼らは彼らだけの力で生きていくことなんてできない
必然的に、待たなきゃならないんだ

それでも、返答を求める


「代表して仙蔵くん。」

待てるか待てないか

予想通り、仙蔵くんはこちらを睨みつけたまま頷いた

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