10 行ってきます

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煩い音楽を鳴らす携帯を叩くようにつかみ、切る
五時か、うん、眠い。と目をこすり、ソファーからおりて洗面所に行って顔を洗い
トイレにいき、シャワーで髪を洗いドライヤーで乾かしていれば、そこで漸く頭が覚めてくる

夜に強いわけではないが、朝に強いわけでもない

昨夜洗濯機の上に用意しておいた服を着て朝食の準備
ホットケーキを焼いている数分にちょこちょこお昼を用意する
昨日だしそびれたお惣菜のポテトサラダも添えたれ。と各自の皿に少しずつ盛り
6つの皿にラップをかけて、焼きあがったホットケーキたちはテーブルへ
バターとハチミツ、メープルシロップにジャム、切ったリンゴとオレンジ、無糖のヨーグルト

「・・・なんだそれ。」
「ホットケーキ。食べな。」

ゾロゾロと起きてきた子供らはまだうつらうつらしてはいるが、お腹は空いてるようで大人しく席につく
顔を洗いたいという子にはお湯で濡らしたフェイスタオルを渡す。朝に一々抱き上げてる時間はない

「***は食べないのか?」
「もう食べた。気にしないで食べなさい。」

昨日もっと早く寝ればよかったと慌ただしくしてる自分に嫌気がさす

洗濯機に子供らの服やら下着やらを入れ、乾燥までセットして、漫画やら小説やらを部屋の隅に置く

時計を見れば七時を少し過ぎていて、もう出る時間だとキッチンまで運んでくれた空の食器を軽く流し
シンクに重ねて、昼食をテーブルに並べた

「もう行くんですか?」
「行くよ。」
「これ食べていいのか?」
「12時になったらね。麦茶はこれ。」

ペットボトルをあけ、またしめる
ソファーにかけておいたコートを羽織り、大人しくしててね。とだけ言ってバッグを片手に家を出た
もちろん、鍵を忘れずに

「バスまで三分・・・いけるか、」

ヒールで走るのはあまりよくないが、これを逃すと次まで10分待つ。10分待つと、乗り換え後の電車が15分は待つ
その無駄な待ち時間、是非仕事にあてたい。ただでさえ昨日休んでいるのだから

「間に合った、」

乗車カードをかざし、そこでようやくいつも通りイヤホンを耳につけた
いくら自分の気持ちが焦ろうが、バスや電車は時刻表を大概守って運行していて
だから、公共機関を使ってる時だけは何も考えずにいられる

駅を降りれば流れにのって自然と早足になる
通門証をみせて敷地に入れば、その流れは更に早くなり
目的の建物につく頃にはすっかり仕事モードだ

制服に着替え、パソコンを立ち上げログイン
既に仕事をはじめている上司に挨拶をすれば、片手だけで返される

早速仕事に取りかかろうと引き出しを開けたところに、上司がマグを持って近づき

「残業申請は十時までにしといてくれ。」

俺その後昼まで会議でいないから。とだけ言って、給湯室のほうへ消えていった
その後ろ姿に了解。と小さく呟き、残業申請のページを開いて22時までの申請を回す
きっと上司が席に戻れば承認され、次にまわされた部長が承認して、今日の残業は最短で22時に決まるんだ


優先順位なんてそう簡単に変えられるわけはなく
子供らのことなんて欠片も考えていなかった

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