同棲後


「相変わらず強いな。」
「水の代わりにワインを飲むような猛者が周りにいたせいですね。どうにも、釣られて酔えないようになりました。」
「に比べてお前らの情けないこと。」
「ワクどころかアルコールを認識できねェような人と一緒にせんで下さいよォ〜・・・酔うの初めてでどうしていいかもわからんのですから〜・・・。」
「わしも初めてじゃァ・・・頭がガンガン痛むけぇもう帰ります。」
「待っておれ一回吐いてくる・・・」

天井を仰ぎ頭を抱え口を押さえる三大将を見て、ゼファーは酒を呷りため息をつく。横で潰れているガープは早くからソフトドリンクに移行したセンゴクが責任を持つ、という名の離脱理由により肩を貸されていた
つるは三時間が過ぎた辺りで明日に響くからと帰ってしまっているため、普段のメンバーならゼファーを止めて酒に付き合い続ける命知らずはいないはずだ。だがしかし、今日は店の酒全てを空にしてもけろりとしている人外が参戦していた。アレクシスである
クザンが行くならとゼファーの誘いに頷いたアレクシスは上機嫌のゼファーだけにではなくセンゴクをはじめ階級が上の三大将、そして年上だからとガープとつるに酌をしてまわった。その間水分補給とばかりにボトルをあけ一切胃に固形物を入れないという体に毒にしかならない行為をしていたが、それに気付いたときには物足りないとばかりに自然発火しそうな度数のボトルを一気して開けた直後で、思わずクザンが席を立った瞬間一同異常に気付けたのだ

クザンとアレクシスは付き合っている。クザンが新兵でアレクシスが問題児専門部隊のトップだった時から、もう二十年以上の関係だ
同棲だってしているし、両者の希望で大将となったクザンの副官としてアレクシスは勤務していて、アレクシスの元部下たちは関係を知っている
しかし、いかんせんクザンからのベクトルがあからさま過ぎて片想いにしか見えないのだ。現にこの場にいる誰もがクザンの片想いだと思っていて、アレクシスがそれを完全スルーしているように見えている

「気持ち悪い・・・」
「卿はアルコールに弱いということを自覚すべきだ。」
「そんな強いなんて聞いてない、から。」
「必要のない情報だろう。ゼファー大将、次の店に行きますか。」
「そうするか。」
「おれ達はここで失礼するぞ。ほらガープ、少しは動け。」
「卿らは行くだろう?まだまだ酔うにはアルコールが足りないはずだ。」

さも当たり前かのように言うアレクシスと頷くゼファーに帰りますと言える者はおらず、ボルサリーノもサカズキも互いを見合ってから立ち上がった。クザンだけは、起き上がれずふらりと元の場所に座り直してしまう
アレクシスが酔い醒ましをとグラスを選び、クザンの唇に触れさせ飲ました。一つ間違いがあるとすれば、僅かに残っていた液体はアレクシスが飲んでいた酒の残骸であり、けっして酔い醒ましにはならない液体だということだ

「ぶふっ!」

舌に触れた瞬間噴き出したクザンは激しく噎せながらアレクシスから離れ、おれに構わないでくれと拒否をしめす。普段あれだけアレクシスに構ってほしがるクザンの拒否に、ゼファーは少しだけ驚いたがアレクシスは気にならないようだ
酒を吹きかけられ驚いていたアレクシスはダメそうだなと言うゼファーに首を傾げながら振り返った

「仕方ねぇ解散するか。クザンはおれが送る。そこの二人は自力で帰れるか?」
「ギリギリですけどねェ・・・」

ふらついたサカズキに大丈夫かァいと苦笑したボルサリーノは仕事中と寸分違わぬ姿勢のアレクシスがクザンの前にしゃがみ小さく笑ったのを目撃してしまう。不慮の事故だ。唖然としたボルサリーノにサカズキもゼファーもアレクシスを見て、いつも通りのアレクシスの顔面に二人してボルサリーノを見た
見られたボルサリーノは言葉にせずどう表現していいか分からないまま、ただじっと違和感にアレクシスを見つめる
気づかないのか無視をしているのか。アレクシスはもう飲めない飲みたくないと具合の悪そうな青い顔で訴えるクザンの背を撫で、帰ろうかと問いかけた

「帰る・・・吐きそう・・・幻滅、した?」
「酔って吐くくらいで失墜するようなものでもあるまい。卿のその弱気はあまり良いものではないな。」
「だってアレクシスさん何でもねぇような顔してるし・・・おれが弱いだけ?」
「いや、卿も十二分に強い。ゼファー大将や俺が些かアルコール耐性の面で異常なだけだろう。ボルサリーノやサカズキも酔っているようだしな。」

クザンに肩を貸し立ち上がったアレクシスはゼファーに向かって俺が一緒に帰るからと言おうとしたが、あまりにクザンがふらふらなので意識がそちらに向いてしまう
口を押さえたまま無言のクザンは息を吸うのも気持ち悪いようで、もうダメ吐くと呻いてトイレに走っていった

「意外と元気だな。」
「いや、元気とは違うだろ。」
「ゼファー大将、クザンは俺が連れて帰りますから、真っ直ぐ帰宅してください。」
「体格的におれが適任だと思うがな。」
「ゼファー大将に送らせるのも申し訳ないですし、俺はこの通りしゃんとしていますので。」

そうはいってもと渋るゼファーはふらふらと戻ってきたクザンが迷わずアレクシスにもたれるのをみてため息をつき、気を利かせる場面かとボルサリーノとサカズキに目配せをする
酔いがまわってきたらしいボルサリーノはさっさと帰りたくて仕方なかったが、出入り口をアレクシスとクザンが塞いでいるので帰れずふらつくサカズキの体勢を直しながら頷いてみせた

「帰ったらシャワーは浴びような。」
「やだ・・・ねる・・・」
「一緒に入ろう。そのままでは同じベッドには寝れない。俺がソファーで寝ると卿は怒るだろう。元あったベッドは卿が捨ててしまったし。ならばシャワーは最低条件だ。」
「・・・・・・洗ってくれんなら、がんばる。」
「決まりだ。」
「一ついいか?」
「何でしょうか。」

たまらず声をかけたゼファーは振り向いたアレクシスに言葉につまり、あーと言いながら頭をかく。そして、意を決したように疑問を口にした

「一緒に住んでいるのか?」
「はい。」
「いつからだ。」
「もう二十数年になります。ほらクザン歩きなさい。」
「床すっげーぶにぶにしてんだけど・・・歩きにくい。」
「相当酔っているな。」
「もしかして〜・・・好い仲なんですかねェ〜?」
「ああ、そうだな。恋人というやつだ。」

衝撃ですっかり酔いの醒めたボルサリーノは寝落ちたサカズキを床に落とし、帰りますねとクザンを連れて帰るアレクシスの背を見つめる
同じく呆気にとられていたゼファーは、数拍おいて深い深いため息を吐き出した

「・・・気づかなかったわっしが鈍いんですかねェ〜?」
「いや、あいつが分かり難過ぎるんだ。ありゃ、クザンは相当苦労してるぞ。」
「ですよねェ・・・。」

翌日廊下で促されるように昼休憩を外でとらされることになったらしいアレクシスが忘れ物したと部屋に戻っていくクザンに微笑んでいるのを発見したボルサリーノは、楽しそうなクザンに無表情で返事をするアレクシスとのギャップを思い浮かべて頭痛を覚える
それを二日酔いと片付け、それ以上変なものを見ないうちにと踵を返した



[*prev] [next#]
[mokuji]