同棲後
オハラ直後
「クザンの掲げる正義を知り、尚疑うといいますか。」
凛とした響きに非難は見当たらない。単純な疑問に聞こえるそれに、センゴクはゆるく頭を振り悩ましげにひじをつく
「疑惑は簡単に払拭されない。わかるだろ。」
「ならば疑う輩を連れてこい。弱い頭にも分かるよう懇切丁寧に説明してやろう。」
「・・・お前がそこまで庇うとはな。」
ゼファーがいきなり連れ帰り自分の部下にすると宣言した時から見てきたが、センゴクはアレクシスがこうも誰かに肩入れするのをみたことがない
クザンの顔を見れば何が真実かは簡単にわかるが、察していようといまいと、アレクシスにはどちらでも構わないとすら思っているように感じられる
「俺はクザンを信頼している。その正義に取り組む姿勢は大変好ましい。いわれなき風評はその妨げになる。大将、理解してほしい。悪を許さぬクザンの姿勢を。」
嬉しかった。同時に、泣きたくなった。アレクシスの評価に反した自分の行動に生じた僅かな恥を更に恥じる。自分を背に庇うように立つアレクシスの言葉が胸に突き刺さり、顔が歪むのがわかった
もし知られたら軽蔑される。こわい。それなのに自分をじっと見てくるセンゴクは全て悟ったかのようにため息をついた
「アレクシスの顔をたてよう。不審に思う者にもわかるよう、おれから通達しておく。」
「感謝します。」
「アレクシス、さん、おれ・・・っ、」
「行こうクザン。」
待ってくれ。違うんだ、本当は。のどにつっかかったまま出てこない言葉は罪悪感となって胃痛を起こさせる
そして親友であるサウロが、確かにそうなのだが、反逆者として。そして敢えて言うなら学問に興味を持ったことだけが罪だったはずのロビンが責を負う結果に。クザンが事実上の無罪放免になってしまってから、誰にも裁かれない苦痛に負けて吐露してしまった
「そうか。」
重い罰がほしい。そう願うクザンにアレクシスは頷き、柔らかな鴨肉のシチューをデスクに置いて席に座る。一切食欲の湧かないクザンは目を瞑り食事前の挨拶をするアレクシスを呼んだ
「少し作りすぎてしまった。皿にある分は食べきってもらえるとありがたい。」
「いや、おれは・・・」
「卿は素直に話した。一度の失敗は一度の成功で取り戻せる。」
「でも、裏切っちまった・・・から、」
「卿は俺がそんな器の小さな男に見えるのか?心外だな。」
早くしないと冷める。さっさと席に座るよう指示したアレクシスは何かを呟いたクザンに顔をあげ、どうかしたのかと問う。その顔には疑問しか浮かんでおらず、本当にクザンの何も責めていないようだ
「・・・おれ、アレクシスさんの隣にいても恥ずかしくない男になります。」
「今のままで構わない。だが、努力するのは勝手だ。卿は努力家だからな。止めることは難しい。」
後悔はしていない。あれが、あの時のおれの最良だった。言い聞かせながらも誰に言えるわけはない苦悩をアレクシスはあっさりと肯定し、見放さないどころか悔いているなら次で挽回だと道まで用意してくれる
クザンは舌の上でとろける鴨肉とワインベースのシチューを口に招き、焼きたてのガーリックバケットをかじって無理矢理飲み込んだ。ぼろぼろと泣きながらそれを繰り返すクザンの手に持たれるバケットはチーズ、ゴマ、タマネギ、プレーンと味を変え、飽きないようにと配慮してくれているアレクシスの優しさに嗚咽まで漏れた
「サ、ウロっ、すまねえ・・・っ、」
懺悔だ。涙声で漏れるに目を瞑りゆっくりと頷くアレクシスは度数の高いアルコールをグラスに注ぎ、クザンがべろんべろんに酔って潰れるまで付き合う。そうしてぐでんとテーブルとお友達になったクザンはしっかりと自室に運ばれ、アルコールのせいで虚ろになった目でアレクシスを見上げた。そして、アレクシスの腕を抱き抱えるように微睡み意識を途切れさせる
アレクシスはそっと髪を梳き頭を撫で、大丈夫だと寝入ったクザンに囁いた
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[mokuji]