不運委員と呼ばれる保健委員になったとき、僕は妙に納得した
穴があればわかってても落ちる。何もなくても転ぶ。よくある不運は、日々僕を傷だらけにしていたのだから

保健委員の仕事をしていて、よく先輩方の話に出てくる伊賀という人物は、薬学に秀で先生の補助や授業自体請け負う優秀な人らしい
そんな凄い人がいるなんて!と、僕ともう一人の新人保健委員はその人に会いたがった。だから、委員長が会えるように計らってくれみたい

「では、次の委員会に呼んでみましょうか。」
「アイツは保健委員にはわりとすぐ懐くからな!」

そして迎えた委員会の日、入ってきた人は僕と同じくらいで、声は僕とよく似てる。なんだか妙な懐かしさを覚えた僕は、その人に声をかけようかと口を開いたけど、その人は踵を返し保健室から駆け出てしまった

「おい!」

逃げるように出て行ってしまったその人の事は、箝口令がしかれていて話しちゃいけないって委員長は言ってた。委員長はそういやと小さく呟き、なんかあんだなと僕の頭を撫でていったけど
僕は、気になるその人について自力で調べることにしたんだ

三年。
三年追い続けて、そしてみつけた
お団子を持つその人は、僕がくるとわかってたみたいに僕の手を引き長屋の屋根の上まであげて、腰を下ろした
僕は落ちないように立ったまま、その人を見下ろす

「今でも団子は好き?」
「・・・兄様、だよね?」

するりと顔を囲う布がとられ、満月に照らされた顔が僕をみた。その瞬間、僕は屋根の上だというのに、僕はその人・・・兄様に、抱きついた

「わっ!あ、危ないじゃないか。」
「兄様!!」

苦笑しながらも落ちないように抱きしめてくれた兄様は相変わらず僕と同じ顔をしていて、僕は嬉しくて泣く
死んだとばかり思って、幽霊でも追いかけている気分になっていた僕には夢でもみているようだ

「泣かないで、」
「兄様、兄様は、どうして僕の前から!」
「僕がいなくなれば、幸せになるかと思ったんだ。」
「僕は!例え元服の儀のときに殺されていても、兄様がいなくなるよりずっとよかった!」
「し、って、た・・・のか?」

驚き見開かれた目に水の膜が張って、ああ、兄様は僕が殺されると知って、全部捨てて僕にくれたんだってわかった。今更だけど、僕が捨てられたわけじゃないってわかって、すごくホッとしてる

「僕、今善法寺伊作っていうんだ。兄様は?」
「・・・僕は大川伊賀。大川平次渦正学園長の、養子なんだ。」

伊作。と僕の名前を呼んで確かめるように抱きしめてくれる兄様は、団子食べない?満月だから月見しよう。と泣き顔のままお団子を差し出してくれた

「兄様は?」
「伊作のために作ったんだ。伊作にまず食べてほしい。」

兄様の手作り!と喜んだ僕を、本当に嬉しそうに見つめる。兄様は僕と同じ顔なのにひどく大人っぽくて、ドキドキしてしまう

「あむ、む、うむ。」

ここでお決まりのように喉に詰まらせた僕にも動じることはなく、水筒を差し出してくれた。ほっと一息ついた僕の頭を撫でながら、兄様は相変わらずおっちょこちょいだなと笑ってくる
自分の不運に心底嫌気がさしていた僕は、途端にこの不運が嫌じゃなくなったのだから、現金な性格をしてると思う



前 戻る 次