「不便はない?」
「聞かなくてもわかるでしょ?伊作が僕を考えてする事に間違いはないんだから。」

望むセリフを口にすれば、途端に綻ぶ顔。その残虐性を隠した顔も間違いなく素顔で、僕だけに向けられる特別な顔だ
祖父を殺し母を殺し父に権利の譲渡をさせた伊作は、分家を黙らせ本家家長の席に座る。残虐性は僕以外に発揮され、僕に危害を加えるつもりは欠片もないみたいだから、まあ僕はいいけど

「伊作、僕は本当になにもしなくていいの?」
「伊賀がいてくれるから僕は生きていられるんだ。伊賀はただ、僕と同じ姿で僕と一緒に生きて一緒に死んでくれればいいよ。」

今日も身体動かしにいこう?微笑む伊作に手を引かれ、僕は立ち上がる。夜以外外に出ない僕の肌は日焼けなんて無縁で、最初ひどくそれを嫌がっていた伊作も今は浮くような白さに伊賀はやっぱり神々しいねなんてうっとりするのだから人の思考は変わりゆくものだ

「今日は昔よく行った河へ行こうよ。」
「伊作とならどこへだって行くよ。」

嬉しい嬉しいと笑う伊作は、可愛く幼い。なんだかんだ、僕だって伊作が好きだから、喜んでる伊作をみれることが嬉しい
なんだかずっと昔に手をつないでた、あの泣き虫な伊作に会ってるみたいだ。伊作を笑顔にしたくて頑張っていた、昔の僕に僕は戻っているみたい

「伊作。」
「なに?」
「お願い、聞いてくれる?」

もちろんだよとぐっと近くなった伊作にまた兄と呼んで欲しいといえば、伊作はどういうことと不思議そうに、けれど危なっかしく僕をみた

「一度だけ、僕たちが幼かった頃みたいに。」
「・・・なんか、それって恥ずかしい、」

けど頑張ると頬を染めながら、意味を理解した伊作はふわりとあどけなく笑う。僕の見たかった笑顔で、少し細い声で

「・・・兄様、」

これが演技でも僕には十分。自由とは言い難い生活も不自由ではないし、親を慕わず伊作だけと生きていた僕には伊作がいるだけで満足だ
兄様?また口にした声色は不安げで、僕はつられて不安げに眉を下げながら伊作を呼び、おいでと腕を伸ばした

「・・・伊賀。」
「なに?伊作。」
「僕が弟で、よかった?」
「伊作が弟じゃないなら、片割れなんていらないよ。」

僕の大切な大切な、たった一人の弟。それが伊作だったから、僕はこの異常を受け入れ嬉しくすら思うのだろうね

「・・・伊作とキスしたい。」
「鱚・・・?」

言うと思ったと笑いながら、僕は伊作の両頬に手を添え額にキスを一つ。反射で目を瞑った伊作の瞼がそろりと開くのに合わせ、僕は自らの意思で自らの好意により、伊作の唇にキスをした




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