「伊作はいるか?」
「・・・いや、いないが・・・用か?」

戸を開けた留三郎の窶れっぷりに本当大丈夫かなと心配。保健委員としてやっぱり気になるんだよね
それにしても、そんな大きな声で話してたら丸聞こえなんだけど、いいのかな?

「ならよかった。・・・伊作はまだちぐはぐなままか?」
「ちぐはぐ、か・・・なぁ、伊作は、昔からああだったんじゃないか?」

仙蔵のならよかったは僕に聞かれなくてのはずなんだろうけど、聞いてるからね
足を投げ出し座って、片膝をたてる。たてた膝を抱えるようにもたれて、僕は傍観の体勢に入った

「どういうことだ?」
「あいつが大川に再会してから、あいつはそれまでのあいつに徹してたんじゃないか?不運で災難に見舞われるほっとけない姿を・・・演じてた、んじゃないか。」
「・・・何年も、私たちを欺いていたというのか。何の得がある。」

擬態のなにが悪いんだろう。だってそのほうが皆油断するだろ?伊賀が完璧だから、僕は劣る分をそういった小細工で補わなきゃいけないんだ

「わ、かんね・・・けど、」

ブルブルと震える留三郎は突然その場に崩れて、浅く荒い呼吸を繰り返す。仙蔵がその背をさすり、労り、部屋へ戻るよう促した

「用は、済んだのか?」
「いや、又の機会に改めるさ。」

気になるなぁ用件。僕がいなきゃダメなら僕関連なんだろうけど

「いいのか、またで、」
「・・・これが、切れてしまったのだ。直せるか?」
「ひっ、」

仙蔵が袂から取り出した髪飾りに寝る前だから髪をおろしてたんじゃないのかって、僕は二つに切れた髪飾りにかわいそうと呟く

「っ、おい、留三」
「僕が治すよ、仙蔵。」

留三郎が真っ青な顔で僕をみて、仙蔵もただでさえ白い肌を白くさせた。なんだかその反応、失礼な気がする

「伊作、戻ったのか。」
「うん。仙蔵が部屋を訪ねるの珍しいなってみてたんだけど、恋敵同士の決闘とかじゃなくて安心したよ。」

ほら渡して。髪飾りを要求した僕の手をじっとみる仙蔵は、どこへ行ってきたと小さく問う。僕は首を傾げ、ゴミ処理だよ、ただのと安心させるように笑った

「では返り血か。」
「逃げ回るからうっかり被っちゃって。ほらいいから渡して?」

大丈夫汚さないから。そっと渡された髪飾りに笑って、僕は部屋へ入る。予備として編んでいた髪を探し出し骨を付け替えた僕は、予備部品を守ってくれていた伊賀に口づけた

「ただいま伊賀。」

はいできたよ!仙蔵に振り返れば、仙蔵は目をそらしながらも言い辛そうに口を開く

「大川はもういない。遺骨をそんなふうに」
「いるじゃないここに。」

愛しい髑髏をそっと抱き、ね?と頬をくっつけた。ひやりとした感覚に、冷たくなっちゃったけどねと微笑んだ

「死んで意識はなくなっても、寄り代があれば魂は戻ってくるよ。ずっとそばにいられる。寄り添って生きていけるんだ。彼女も、仙蔵に話しかけてくれるでしょ?」

治ったよと髪飾りを渡した僕にありがとうと口にしながらも戸惑う仙蔵は、目を一度きつく瞑りそれではと踵を返す

「大切にしてね。」
「・・・ああ。」

物には魂が宿る。だから、僕は伊賀を大切にする。皆もきっとそうだから、あの女を身につけてるんだよね




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