うわぁぁぁぁあ!みっともなく叫びながら逃げていく留三郎を追って、僕は首を傾げる。普通に手当てしてただけなのに、その反応はないんじゃない?

「とめさぶろー?ちゃんと手当てしないと感染症になって死んじゃうよー。」

ほら逃げない逃げないと文次郎の背に隠れながらカチカチ歯を鳴らす留三郎の後ろを取り、反応しきれない文次郎の驚きに肩を竦めてため息をつく
留三郎はひどい隈をこさえた目で僕を振り返り、それ嫌だと駄々っ子のように首を振って逃げようともがいた。僕に腕をつかまれたんだから諦めればいいのに

「いっ、いっそ死なせてくれっ!」
「何それ嫌味?最大の親不孝をさせられた伊賀への嫌味なの?」
「違う!!ただっ、ただ俺は」
「言い訳はいいから、早く手当てさせて。僕だって暇じゃないんだからね?」

手当てした方がいいって文次郎も言ってよ。留三郎の身体を二つに裂くつもりでやった肩から腹部にかけての刀傷にそりゃ、まぁ、と曖昧にも肯定した文次郎に、留三郎は嘘だろ気合いがあれば治るとかいえよって無茶苦茶いう。バカなの?治るわけないじゃないか

「ほら行こう。それ毒塗ってあるから早くしたいんだけど。」
「ぃっ、いだっ、」

腕を思い切り引っ張れば傷が広がり留三郎の目に流石に涙が浮かぶ。泣かないの最上級生でしょと呆れながら、僕は留三郎が授業中に落とした足輪を手に掴ませてあげた

「ほらあの人もずっと留三郎についていてくれるんだから、みっともない姿はやめな?」
「だ、からっ!あれは間違いで」
「間違い?なんの間違い?」

泣き叫んでいた留三郎は強張りながら僕を凝視し、僕はそうじゃない、違う、そういうことじゃと気が触れた人みたいにブツブツ呟く留三郎の手を引く。じっとさ迷う目を見つめれば、その目は歪に弧を描いた。泣いて笑って、忙しい留三郎

「一月空いたくらいで、君はあの人を嫌いになったの?あの時の想いを否定するの?そんな軽さで、僕に説教垂れてたの?まさか、だよね?」
「好きですっ、まだ天女様を好いてますごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ、」
「ああよかった!うん。安心した。じゃあ今度こそなくさないでね?せっかく骨を加工して身につけやすいようにしてあげたんだから。」

そうだ、文次郎もちゃんと身につけてる?矛先が向いたとばかりに視線を彷徨わせた文次郎は忍び装束に隠れていた首輪を引っ張り出し、ちゃんと着けてる。ありがとうって目をそらした

「仙蔵は髪飾り文次郎は首輪留三郎は足輪で長次は耳飾り。小平太は難しくて一応腕輪にしてみたんだけと、小平太腕輪ごと手をガリガリ引っ掻いていつも包帯してるんだよね。かわいそう・・・手当てもすごく嫌がるし・・・ああごめん話がそれたね。」
「いや構わない。早く留三郎の手当てをしてやれ。」

そうするねと留三郎を引きずりながら、僕は兄様に会いたいなぁって呟く。兄様は僕が喋り過ぎちゃう時に止めてくれるし、兄様がいれば僕は独りで過ごしていないから

「あ、久々知。保健室に用?」
「っ、あ、はい、」

諦めたように引っ張られる留三郎と一緒に保健室の前で入るのを躊躇っている久々知をみれば、久々知は手のひらに見える傷を眺めてから首を横にふり去ろうとする
僕が声をかければ弾かれたようにこちらをみた久々知に、どうしたのと寄って首を傾げた

「傷薬がきれてしまいまして、いただきたいのですが。」
「ついでに手当てもしちゃおう。入って。」

頭を下げた久々知は顔色変えず、けれど保健室にいた一年二人に見られ足を止める。冷え切った目は下級生らしからず、癒された幼さなど微塵も感じさせないもの

「止まってないで早く入りな。」
「・・・はい、」

頷いた久々知の目は自嘲するように伏せられた
ばかだなぁ、そんな顔するなら最初から敵に回らなきゃよかったのに




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