大川


一つ才を得た者なら数多いよう。二つ才に恵まれた者なら少なからずいよう。幾つもの才に秀でた者はそう多くはない。

儂は幾つもの才を親から与えられ、あの子もまた幾つもの才を与えられた者。人を導き先頭に立つ、そういう青年へと育つはずであった


「儂には過ぎた息子じゃ。」


何度友人へ口にしたかわからぬセリフ。本心であり、今でもそう思う。思うとるが、もう口にすることはできないじゃろう

「唯一の、親不孝がこれとはな。」

数々の新薬を生み出し、治療法を編み出し、儂の度肝を幾つも抜いてきた。そんな息子の果ての姿を、見ようとは

「すまなかった・・・」

僕は土葬より火葬派です。そう言った息子の意を汲み燃やした後に残ったものは、老いた身に辛く染みていった

「・・・善法寺伊作。お主にも申し訳ないことをした。」
「後悔なんて聞きたくない。兄様は学園長を本当に尊敬していたんです。兄様は、学園長が穏便にというから、」
「わかっておる。早い段階で手を入れておれば伊賀が命を落とすことはなかったじゃろう。恨むなら、憎むなら儂を」
「僕、そういうのもうやめるんです。」

煤を払った髑髏に跪き、両の手で掲げると愛おしげに額に口づける。儀式のようなそれを見ている儂に、善法寺伊作は目を垂れさせながら到底笑みには見えぬ歪な、それでも笑顔であろう顔を向ける
どれほど伊賀の存在が大きかったのか、儂には想像もつかん。ただ儂に善法寺伊作を止める術などなさそうじゃ




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