「おはよう伊作。」
「おはよう・・・伊賀。」

兄様と公衆の面前で呼べぬもどかしさより兄様を呼び捨てにする恐れより、僕は兄様と過ごせる事実に浮き足立つ。僕の中で何を置いても得難いものは兄様だから

「今日から僕もは組だから、よろしくね。」
「うん。よろし、く?あれ?伊賀って、忍たまだったの?」

なんだ気づいてなかったの?笑う兄様は僕の手を自然に握って、大好きだよって頬に唇を触れさせる。僕は意味が分からず頬をおさえながらうろたえて、でも兄様が同じ組だっていうのだけは理解して、泣き出した

「僕っ、に、にぃさまにっ、にいさまぁっ!」
「伊作、」
「ずっと、ずっと一緒がいいっ!お願い兄様っ、僕をそばにいさせて!」

僕から離れないでと訴える姿は兄様にどう映ってるんたろう。こんな弟で、残念がってる、かな?

「兄様、ごめ」
「僕も一緒にいたいよ。僕、伊作が大好きだから。」

言葉にならず泣く僕を、兄様は優しく抱きしめてくれた。大好きだよって嬉しそうに、囁いて
痛みの代わりに温かさに溢れた胸は兄様も一緒みたいで、僕は兄様と笑いあう

「おーい伊作、早く朝練に、って・・・伊作が、二人?」
「食満くんが来たよ。」

僕は行くねと微笑む兄様。兄様の暖かさに緩んでいた空気は消え去って、僕は兄様の腕をつかみどこへ行くのと叫ぶ

「僕が善法寺にばれれば、僕は連れ戻され家からだしてもらえなくなる。そうしたら、本当に、二度と伊作に会えなくなるかも。」
「そんなのいやだ、」
「僕は伊作と共に生きていたい。だから・・・だから、伊作、僕に追いついて。僕は歩みを止めないから、伊作は走ってきて。共に生きるには、一緒になるには、きっと僕はだめなんだ。伊作が僕と同じじゃないと、僕はきっと伊作といれない。」

約束だよ。そう頭を撫でてきた兄様は、きっと僕の実力を知っているんだ。知っているから、僕に兄様と同じように知識を蓄えろって言っているんだ

「うん。約束する・・・だから、僕のそばにいて。」
「うん。約束する。」

口あてをしていてもわかる僕と同じ顔に、留三郎は固まったまま。兄様は僕の手をぎゅっと握ってから、音もなくその場から消えた



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