手伝います。なんて言われたのは初めてだったの
吃驚して思わず固まれば、頬がつうっと濡れて余計吃驚した。だって、私泣いてた

「やあ、気づいたかい?」
「・・・や、まだ、さん?」

私なんかを誰かが助けてくれるわけない。そういうものだったの
なのに目の前には初対面なのに私に手をさしのべてくれた山田さんがいて、私は薬のせいで息もできないような痛みが薄らいでるのが不思議でしかたない。もしかして、治療してくれたのかも

なんのために・・・?

「あの、私どうして、なぜ、ここは、」

聞きたいことがありすぎて混乱する私に山田さんは優しく微笑んで 、そして三日ほど寝込んでいたんだとだけは教えてくれる
でもここがどこかもなんで私を助けてくれたのかも、何もわからない

「白湯を持ってくるから、まずはそれを。大丈夫そうなら、胃に食べ物を入れようか。」
「は、い、」

分からなければ流されればいい。大丈夫、私はそうやって生きてきたじゃない
山田さんがどこかへ出て行って、私はお湯が沸くまで時間がかかることを知っているから、ズキズキする体を起こしてみる
手も足も動くので、多分白湯飲んだ後に放り出されても頑張れるはず

「大丈夫。私はまだ頑張れる。大丈夫、大丈夫。」

心に強く自己暗示。そうすれば、本当になる
私は自由を目標に生きてきた。社会人になれば、私を傷つける人から逃げて、知らないとこで頑張って自由を手にするの
こっちの自由なんてよくわからないけど、いつかあっちに戻ったときのために頑張らないと

「お待たせ。ぬるめにしたから、飲めると思うよ。」
「ありがとうございます。」

ありがとうございますと湯飲みを手にして笑えば、少し堅めな皮膚をもつ指先が頬を撫でて、湯飲みが持った手の上から掴まれ支えられ、そして抱き締められる
ぶわっと嫌なことが頭に浮かんで、ダメだめ駄目、思い出したら辛くなるだけって目をぎゅっとつむった

「山田さん、あの、」
「無理して笑う必要はない。」

山田さんは、一体何者なの?誰も、笑わなくていいなんて言わなかったのに。笑えと、強要する人すらいたのに

「笑いたいときに笑い、泣きたいときに泣き、怒りたいときに怒り、そうやって感情を表に出していいんだ。」

じわりと視界が歪んで、溢れて顎まで一気に濡れる
ぶわっと、止められずに涙が溢れて、唇をぎゅっと結んで泣くな泣くなと山田さんから離れて目をこする

「泣いていいんだ。」

優しくされると困るの、どうしたらいいかわからない。何が目的なの?

「怪我人相手に何をしているのですか?」
「!は、母上っ、いえ、これは」
「仕事があるのでしょう?」

どうしよう、知らない人が部屋に、怖い。これからなにされるの?
母上だから山田さんのお母さんなのかな、すごく綺麗な方。なぜか山田さんが怒られてるけど、私の、せい?

「私っ、出て行きます。」
「何を仰っているの?そんな重症で出て行くだなんて、どうぞお気になさらず治るまでいらして頂戴。」
「いえ!そんな、」
「私がいらしてほしいのですから、ね?」

言葉に詰まってしまう。こんなときどうすればいいのかわからない
笑って、頷けば、とりあえずはいいのかな

「ありがとう、ございます・・・お言葉に甘えさせていただきます。どうぞ、滞在中は雑用など言いつけてくだされば」
「ふふふ、利吉さん。」
「は、はい母上、」
「こんな愛らしい方にこのような意識を植え付けさせてしまうだなんて、あの人はなにをしているのでしょうね。」


穏やかに笑う利吉の母に、利吉はこれは相当怒っているなと自分の盲信と父を思い浮かべてひきつった笑みを浮かべた