殴られたって蹴られたって締め出されたって抓られたって罵られたって蔑まれたって汚されたって
死にたくなければ、何とか生きていけるもの・・・



「宜しくお願いいたします。」

丁寧に頭を下げた少女に、学園長と名乗った老人は優しく頷いた
未だ警戒が強い中、少女はにこりと笑うだけ。それは、少女の人生でいい子でいなければ事態は悪化するだけだという経験に基づくもの

食堂の手伝いを任された少女は、料理好きなんですという発言に恥じない腕をみせた
味付けも火のおこしかたも水くみも薪割りも、一度教えれば完璧にこなす。欠点らしい欠点などない、器量よしの少女は丁度結婚適齢期
忍たまの中で、嫁にするならと目をかけられるのも時間の問題な、そんな少女


一部個性豊かな忍たまに愛されている一人の特別な忍たまが、そっと、石を置きます
気づかない程度にありふれた、けれど大きな石を。もちろん、比喩でございます
日々を送るのに必死な少女は、思惑通りに躓き転ぶ


「弥栄に何でもかんでも任せるの、やめてくんない?」
「ごめんなさい。」

手伝うよ。と言われたから断った。二度断って、それでも食い下がられたのでお願いした
断れば弥栄が折角。と咎められ、お願いすれば弥栄を煩わせるなと咎められる
少女は経験で知っていたので、するりと謝罪を口にしました。転ばされるのには、悲しいかな慣れがあった
何にしてもこうやって咎められるのは、当たり前に少女の人生の一部なのです

「大丈夫かい?今日は配膳だけでいいからね?」
「大丈夫です。これくらい、なんてことありません。」

例えば誰かの罠で体中を怪我したとして、そこにたまたま通りかかった心優しい誰かが手当をしてあげました
その際、うっかり間違った薬を使い、熱に浮かされ傷が化膿したとします
少女にとって、それらはにこにことした笑みを絶やす原因にはなりませんでした

わざとじゃない。悪意はない。故意ではない。悪気はない。全て善意故。

少女は性善説を信じてはいません。けれど、少女はそれが自分の人生だと信じております

「そうはいってもねぇ・・・ 」
「大丈夫ですから。」
「・・・なら、お願いしてもいいかい?」
「はい。」

助けてはくれない。庇ってはくれない。陰でどう言われていて、行動に裏があったとして
けれど、優しい言葉をかけてくれる人は確かにいるのだから
だから少女はその人達まで敵に回ってしまわないよう、いい子のままわらうのでした