ある日だった、食堂のおばちゃんが昼食に使う材料が一部足りないことに気づき急ぎ町へ出て、**は一人朝食の片付けやテーブル拭きをしていた
ふと薪が足りないと薪置き場に走って戻ってきた数分の間に、台所は惨事となり食器は割れ下拵えはひっくり返され思わず頬をつねり夢ではないかと確認するほど
兎に角片付けねばとしゃがみかけた時、勝手口に誰かが立った

「・・・なんだこれは。」

え?と振り返った**は背後にいた文次郎に睨まれ、体を強ばらせる
偶々通りかかったのかなんなのか、お前がやったのかと問われ、**は何度も違うというがなら誰がという問いには答えられない
このことは報告するという宣言の通り、**は学園長より周りから甘いとは言われたが、反省文を課せられた

それからも、**がふと目を離した隙に割り終わった薪に水をかけられ干したばかりの用具倉庫にある貸し出し用の着物は泥まみれにされ部屋は荒らされ山本に借りた着物は染みだらけに
**はどれも自分のしたことではない証明もできず、先生方からも冷たい目を向けられるようになる

くすくすと影で笑うピンクの忍装束も痣を絶やさせてくれない深緑と藤色の忍装束も、何も言わないが態度が冷たく疑うような目を向ける黒い忍装束も。**は全部に囲まれ、それでも笑っていた

傷を作る間に弥栄が手伝い、結果傷が増える。悪循環から、**は逃げられない

「大丈夫?あ、皿洗いと料理の下準備手伝ってきたから、行かなくて平気だよ。」
「ありがとう、ございます。」

無理矢理保健室に連れ込まれ傷口に何かを塗り込まれた**は、同時に飲まされた薬湯に外から中から蝕まれる
それでも這うように仕事しないとと足を動かしていた**の前に弥栄がひょっこりと現れ、そして笑顔で親切という毒を吐くのだ
弥栄の向こうに見える弥栄を慕う誰かの目があろうがなかろうが、**はお礼を口にすることしかできはしない

「まだ笑えるんだ。」

次の仕事をと頭を下げて行ってしまった**にぽつりと零し、弥栄はガリガリと爪を噛んだ

「弥栄、久しぶりだね。」
「!利吉さん、お久しぶりです。」

そこへ丁度来訪したのは利吉。先回りして荷物を運んでいた弥栄は、利吉に向けられる思慕を刺激する
自分は慣れないお手伝いさんを助ける優しい人ですよ、自分も大変なのに人を気遣えるできた人ですよ、でも本当はもう辛いんですよ。そう含ませ笑えば、声を上げて笑いたくなるほどに利吉の顔が歪み、目に殺意が籠もった

(みんな可愛い。もっともっと、私を愛して邪魔者を痛めつけて殺しちゃってね。)

だがしかし、思惑通りとは言い難い事態が起きてしまう
利吉がどうしたかは知らないが、**が忽然て姿を消したのだ。洗濯をやりかけのまま、誰にも見つからずに
ただの女子学生である**が小松田に見つかることなく忍術学園を抜けるなど困難で、やはり**は間者だったのではという確信めいた憶測が飛ぶ始末
しっかり死体を残してくれないと困るじゃないと爪を噛みながら、**の死体に泣いて嘆く私を慰めるみんなの図が壊れたことに苛立ちを隠せない弥栄は、一晩経って食堂のおばちゃんと小松田が立ち上がったことを数日後に知った