「話がある。」
「はい。」

なんでしょうと腕に抱えた書類を持ち直した**は、呼び止めた留三郎に首を傾げる
場所は放課後の廊下。人通りを気にせず壁際に**を追い詰めた留三郎は、ドンと**の顔すれすれに手をおきあんまり調子に乗るなよと低く脅しかけた
え?と口元に笑みを残しながら不思議そうに首を傾げた**に弥栄のことだと告げれば、それがと笑みを絶やさずとぼける姿に舌うちを漏らす

「あいつは優しいんだ。困ってる奴には手を貸すし、一人で色んなもんしょいこんじまう。そんな弥栄にてめぇの仕事押し付けんな。」
「・・・すみませんでした。」

素直に頭を下げたはいいが、この一方的な言い合いはあっという間に広がった
結果、色んなところで弥栄を慕うものの目が光り、弥栄に構ってもらえない鬱憤も合わさり**は針の筵にいるような心地を味あわされる

「手伝うよ。」
「い、りません。大丈夫です、私、できますから。」

いつものように薪をとられる寸前に身をかわした**は、驚く弥栄ににこりと笑い大丈夫ですよと念押し
そう?と残念そうにする弥栄に頭を下げ、**は小走りでその場を去った
残された弥栄は肩を震わせ涙を浮かべると、しゃがみこんでゆっくりと息を吐き出す

「弥栄、どうしたの?大丈夫?」
「伊作っ、どうしよう、伊作、」
「えっ、弥栄泣いて、え!?どうし、わっ、」

伊作!と落とし紙をほっぽって駆けつけてくれた伊作に抱きついた弥栄は、何か言われたのかと問う声になんでもないと首をふり
善法寺先輩なにしてるんですかと通りかかった三郎の声に伊作は何もしてないよ!?と動揺する

「っ、ふたりともっ、私、うざかった、かな?」
「何の話ですか、先輩。」
「**さんに嫌われたみたいなんだ・・・」

そしてはっとして何でもないと伊作から離れた弥栄は、涙を拭い忘れて!と元気よく走り去っていった
伊作は**が去った薪置き場を睨みつけ、三郎は瞬時にその場から消える

翌朝、**は唇の端を切らし服から隠れないレベルでの痣をこさえて、いつも通りおはようございますとおばちゃんに挨拶をした