「長次、手伝えることある?」

ひょこっと顔を覗かせた弥栄に、長次は頷きながら胡座をかく自分の足をたたく
首を傾げながらもなに?と近づいた弥栄は抱え込まれるように長次の胡座の上に座らせられ、すっぽりと包まれた
長次?と不思議そうに見上げるその姿は忍たまの格好をしながらも女の色気が隠されておらず、そばにいた雷蔵の珍しい目が長次に向く

「もうっ、ないなら雷蔵に聞くからいい。雷蔵!」
「は、はい!」
「手伝えること、ある?」

それに雷蔵が答えようとした矢先、ばたばたばたと騒がしく八左ヱ門が図書室に駆け込み、大変だと雷蔵に叫んだ
瞬間頬をかすった図書カードは長次の投げたもので、青ざめて謝った八左ヱ門は長次に抱えられる弥栄にぱっと笑う

「おはようございます、先輩。」
「おはようハチ。大変って、どうかした?」
「あ、はい。運動場にいきなり変な着物の女が現れたんです。」
「変なって、どんな?」

こんなん。と手で説明する八左ヱ門にふぅんと頷いた弥栄は、見に行こうと長次から抜け出すと自然な動作で八左ヱ門の手を握った

「せ、先輩、」
「行こう、ハチ。」

結局学園長の庵の床下や天井裏に集まったのは五・六年生の弥栄がいつも一緒にいるメンバー。中を覗けば、丁度学園長が**の滞在を決め、**の頭が手本のように丁寧に下がったところであった

食堂の手伝いをと任された**を、最初弥栄は様子をみてみることから始めた
先入観から**が料理ができるというのもカレー程度だろう、すぐに役立たずで追い出す理由になると思っていたからだ
だが現実、**は和洋中食堂のおばちゃんも舌を巻く腕を持ち、そしてなにより控え目で可憐。一部の忍たまが歳は少し過ぎたが従順そうで家事を難なくこなしいつも笑みを絶やさない**に対して評価し始めてしまう

「あれ、先輩ひとり?俺と町行こう?」
「・・・勘右衛門、」

なに見てるの?あ、お手伝いさん?あの人頑張ってるね。なんの感情もなくするっと誉めた勘右衛門に、弥栄のスイッチがはいった。これは、嫌われからの逆ハーに違いないと

「はじめまして。私弥栄、よろしく。」
「*****と申します。ご迷惑となることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。」

ふわっと笑った**に、弥栄も優しげに笑い返した。これが、初対面である

それから、弥栄は他の誰といるよりまず**といるようになった
**が一所懸命薪を運べばそれを手伝い、食器を洗っていればかわり、掃き掃除をすれば次にやることを片っ端から片づけていく

「お手伝いは有り難いのですが、弥栄さんは生徒さんでいらっしゃいます。私の手伝いより勉学のほうを優先されたほうが嬉しいのですが。」
「私がしたくてしていますから。それに、その綺麗な手が傷だらけになるとこなんて、見たくありません。」

微笑みながら言葉を詰まらせる**の手から用具倉庫に片す荷物をひったくるように奪い、あっ、と小さく声をだした**に片付けておきますねと弥栄はただ笑う
人の好意を断りきれない**は、背中に刺さる冷ややかな目にぐっと手を握ると、素知らぬふりで自分の部屋へと戻った

一方用具倉庫に向かった弥栄は片付けをする留三郎と作兵衛にこれ返却と声をかけ、なんで弥栄かと尋ねられていた

「なんでって、使ったら返却でしょ?返さなくていいの?」
「いや、そうじゃなくてだな、これは吉野先生が後でお手伝いさんが返しにくるっつってたやつなんだが。」
「ほら、**さん大変そうだから。」

私丁度暇だったし。そう笑う弥栄にそれでも仕事ならやらせねぇとと抗議した作兵衛は、そういやと難しい顔で弥栄をみる

「ここんとこ、先輩お手伝いさんの手伝いばっかしてるって、迷子二人がいってたような・・・」
「あの二人、いろんな所に出没するもんね。」
「じゃなくて、本当なのか?」
「・・・う〜ん・・・まあ、気にしないでよ。」

それじゃ、返却したからねと小走りで去る弥栄をみながら、留三郎は険しい目つきで作兵衛と見合った