「今日の食事はいかがですか?」
「・・・いかが、とは?」

味噌汁を飲みかけて止まった利吉は、母親の言葉に首を傾げる
ご飯はいつもより少し柔らかかった、味噌汁はいつも通りで煮物は味は薄いものの出汁がきいていて柔らかかった。漬け物はいつも通りで、佃煮はいつもより照りが甘い。全体をみれば十二分に美味しい食事だ
それを伝えて敢えていうならいつもより品数が多いと返した利吉に、伝えておきますねと母は笑う
え?と首を傾げる利吉はすぐに**さんが?と寝静まった部屋をみた

「先日のお礼にと作ってらしたわ。」
「・・・そ、うですか。」
「改めて、いかが?味は。」

ぱくりと根菜を食べなおした利吉は、飲み込んだあとに恥ずかしそうに箸を持ったままの手で口元を隠す
なんでだと呟いた利吉に、母はふふふと笑って当たり前でしょうと利吉の顔を覗いた

「好いたおなごの手料理は、特別なものですからね。」
「・・・はい。」

あーもー本当美味しいと頭を抱える姿はいつもより幼く、そういう素直さを本人の前で出せばいいのにとこっそり思う
まあ素直さをみせたところで気づく方ではないのでしょうが

翌朝おはようございますと頭を下げてからお手伝いしますと笑う**に、母は色々感想を言っていましたよと笑う
**は不安そうに頷いて、いつものように野菜の皮むきのために包丁を手にした
それを止めた母に首を傾げながらそっと包丁をおいた**は、他に何かと伺いをたてる

「息子がまだ寝ていますので、起こしてきていただけるかしら。」
「ですが、まだ準備が」
「大丈夫ですよ。」

戸惑いながらも頷いた**は恐る恐る利吉の部屋へと向かい、控え目に戸を叩きそっと開けた**に、こちらに背を向けて寝る利吉の姿が見える
息子様?と声をかけるも反応はなく、部屋へあがり揺すろうと肩へ手を伸ばして、その手をつかまれ息を詰めた

「あ、あのっ、」
「起きているよ。」
「ご、めんなさい。あの、息子様を起こそうと」
「利吉、と呼ぶように言ったじゃないか。」

すみませんと目をそらす**に苦笑しつつ、あまり男の部屋に入るのは感心しないなと布団からでた利吉に、つかまれた手を見ながら申し訳ありませんと頭を下げた**は、夕食、と小さく声を発する

「夕食?」
「わ、私が作らせていただいたのですが、お口にあわなかったとお聞きしまし」
「ちょっと待ってくれ、私はそんなこと言っていないよ。」

ですがと言い淀み、色々感想があったと奥様にお聞きしましたとぐっと手を引っ込めようとするのをより強くつかみ、利吉はおいしかったよと微笑んだ

「え、」
「母上の味によく似ていたが、**さんらしい控え目な味がしたからね。そのことを母上は仰ったんだと思う。」
「・・・あ、では、」
「うん、口に合わなかったなんて言ってない。また作ってもらえるかな。」

きょとりと間をあけてはい。と笑った**に、これからずっと作り続けてくれると嬉しいけどと笑う利吉は、意味が分からず首を傾げる姿に何でもないよと苦笑した