005 優しさの正体 *
「・・・っ!」

汗だくになりながらの夜中の鍛錬。突然、背後に現れた気配に迷わず手裏剣を打った
弾かれる音がすると同時に苦無を握りしめ、地面を蹴る。激しくぶつかった金属音に相手をみた私は、昆奈門様の姿に驚き苦無をしまって跪く
昆奈門様はいいよいいよ立ちなと言いながら、私の頭からつま先を眺めて首を傾げた

「大きくなったね。」
「二年と少し、経ちますので。」
「ちょっと手合わせしない?」

尊奈門のお世話でリハビリを完遂した昆奈門様は、確か少しずつ職場復帰に向けて短時間勤務をしていたはず。疲れがある中で更に疲れさせるわけにはいかないのに、私は成長した姿を見てもらえると高揚してしまった

「お願いします!」

木にかけてあった刀を手にした私に、昆奈門様はいい子だねとゆるやかに小首を傾げる。もう痛くなんてないはずの手がピリッと痛み、振り払われた時の悲しさが私を襲った

集中できていたし技術だって身についていて、ただ、昆奈門様を攻撃することへの躊躇いがあった。結果、私の手から刀は離れ首の皮を苦無が切ることで決着がついた

「強くなったねぇ。」
「本当ですか?」
「うん。あれ、今幾つだっけ?」
「八つになりました。」
「そっかそっか。ねぇ、忍者になる気はない?」

忍者に、なる気・・・?なる気があればなれるの忍者?私なんかが?不安がる私に、昆奈門様は難しいことじゃないと苦無をしまってどうするか問う
私は望まれるならと、忍者が具体的に何かもわからずに頷いた

「昆奈門様がなれと仰るなら。」
「ここには君と私だけだよ。二人きりなら、様付けなんていらない。」
「昆奈門さんは、なってほしいのですか?」
「ん〜・・・」

さぁ?どうだろう。そう言って首を傾げた昆奈門様に、私はなりますとしっかり頷き、役に立てるならそれがいいと安易に考えてしまう

「役にたつとおもうよ。」
「ならなります!」
「そっか。」

ならもう穢していいかな。呟かれたセリフを聞き返した私は、耳元で囁かれたセリフに固まった

「湯浴みをして、部屋においで。」
「あの、それは・・・」
「抱くよ。***のこと。」

やっぱりか。恥ずかしいなぁ・・・なんて、歴史はよく知らないし、そもそもゲイが多かったかどうかなんて教科書に載ってるわけないし。私は歴女じゃなかったし
処女で死んだわけじゃないから経験はある。でも、当たり前に童貞だから抱くより抱かれるほうが、まだ抵抗ないのも事実。ネットもないなら調べられない

「お手柔らかに、お願いします。は、初めて・・・だから、」

それでも想像して顔を真っ赤にした私に、昆奈門様は悩ましげに眉を寄せる。優しくできるかなぁなんて物騒なこといいながら

「本当に、***は女の子だなぁって思うよ。」


不安の強い私は取りあえず念入りに身体を洗い、さて服をどうしようと寝間着と小袖を見比べる。寝間着かなと着た上で婚約者様からいただいた髪紐で髪を結った

知識がないことを素直に告白した私に、昆奈門様はそうだよね、だと思った。と頷いたからよかったと安心したのに。説明も声かけもなくいきなり縛り上げられ転がされ、お尻の穴に指を押し入れようとする
多分そうなんだろうと思ったけどやっぱり未知の行為だから恐ろしく、そんな汚いとこにいきなり指を入れようとすることに驚いた
信じられない気持ちで部屋の隅に逃げた私に向けられた目は底冷えしていて、息を詰まらせるのに十分過ぎる。雑渡様、そう思わず口にした私の縛られた腕をつかんで起きあがらせた昆奈門様は、私の身体を壁に打ち付けすごく面倒そうにじゃあ洗ってあげると口にした

「こ、昆奈門様、」
「様?」
「っ、昆奈門さんっ、」
「洗って欲しくないなら話は聞くけど、どうする?」

そんなの拒否権なんてないじゃんか。羞恥と苦痛と恐怖と快楽と、私の身に降りかかるそれらは私を混乱させ、私の持っている常識を壊し、私の軟弱な精神は耐えきれず現実逃避に走る
愚かな私は、この時はじめて昆奈門様からの愛情が偽りで、警戒心を解いて一気に堕とすためのものだったと悟った
私はただ、嬲られ甚振られ昆奈門様の要求に応えて息をするだけの玩具にすぎないのだと、わからせられたから

奴隷、なんて・・・やっぱり現実には感じられないんだけど、それはただ、私が夢見がちなバカな女だというだけ

裂かれた寝間着や捨てられた髪紐をみながら、婚約者様からいただいたものだったのにと、ぼんやり意識を明後日へと向けさせた


翌日、立てない私の目の前で。昆奈門様は山本さんに吃驚するほど怒られてた