003 不審者 *
「・・・」
「・・・」

鍛錬に暮れていた***の前に現れた男は、じりじりと後退りをするその子どもに一歩ずつ近づいていく。男の手がのびれば、***は棒手裏剣を手に木の上へ飛んだ

「その歳でそれほど跳ぶのか。」
「ひっ!」
「だが、身のこなしだけだな。」

逃げるに徹する***は自分の意思で人を傷つけることへの抵抗により棒手裏剣を握ったまま、木々の間を縫い子どもにしか通れないような道をくぐってタソガレドキ忍者隊の村まで逃げる
緊張で汗だくになりながら地面に降りた***の目に、久しぶりに見る大男の姿があった

「・・・雑、ァ、昆奈門、様、」
「久しぶり、かな?」

痛々しい姿だ。余すとこなく包帯で覆われ、足を引きずり、髪の毛は隙間から無様に飛び出ている。火傷薬と腐敗した臭いが息をしたくなくなる臭気を放っていた

「あ、の・・・」
「殿が、私をまだいるというんだ。」

亡霊のような正体不明の雰囲気に息を飲み、***は良かったのかなと昆奈門を見上げる。昆奈門にとっての最善など、***にはわからないのだから

「今は立つのもやっとだけど、少し頑張ってみようと思う。私は、私でかかりきりになるから。指南役として一人、雇ったよ。」
「指南役、ですか。」
「顔が真っ白で額にゴキブリつけてる人、会わなかった?」
「ゴキブ、」

いた!確かにいました!思い出し驚きをした***に、昆奈門は忍びでもあるが火縄銃の名手でもあると***が先ほどまで鍛錬していた場所へ戻るように告げる
戸惑う***にそこにいるって伝えてあるんだと、昆奈門は包帯越しに滲みでる腐敗液に包帯の上から肉を鷲づかんだ
その手をつかんだ***は、躊躇いなく腐敗液に触れる。一年も経つのにまだ傷が塞がってないのかと泣きそうに昆奈門を見上げるも、その手は振り払われ明確な拒絶を示された

「昆奈門様・・・?」
「嫌になるよ、本当・・・」
「雑渡様こんなところにいたんですか!皆探しています!」

昆奈門を探していたのだろう、尊奈門が走ってきた姿は汗だくで、昆奈門の手を迷いなくつかむ。それは振り払われることなく、***は振り払われた手できつく拳を作るとなんでその子はいいのと呟きを漏らした

「鍛錬をしっかりね。」
「・・・はい。」

雑渡様戻りましょう。手を引っ張っていく尊奈門の背を睨みつけた***に、振り返った昆奈門はあれは***のだからねと生きている右目を細める

「取りに行かせた刀、***への贈り物だから。」
「・・・!あ、ありがとうございます!」

ぱっと笑みが蘇った***に、昆奈門は身の内を焦がす憎しみとも殺意とも妬みともいえる感情に目を瞑った