45 もう平気。(完)

「(三之助はさ、許してもいいと思ってるの?)」
「(・・・はい。)」

なんとなく、後に引けなくなってしまったのだろう
じゃぁさ。と耳打ちすれば、三之助がいい笑顔になった
特に、滝夜叉丸をみて

第一運動場の端に移動すれば、泣きっ面の小平太と気まずそうな滝夜叉丸に三之助が近寄る

「先輩方。」
「「なんだ?」」
「顔を一発ずつ、殴らせて下さい。」
「え゙っ!?」
「それで許してくれるのか!!?」

二人の反応の違うこと
滝夜叉丸は自分の顔をおさえて唸っているし、小平太は涙をぴたりととめて三之助をみている

頷いた三之助に全力でこい!と構えた小平太につられて、滝夜叉丸も目を瞑って構えた

「・・・いきますよ。」

三之助の拳は振りかぶられ、全力で叩き込まれ

(いっ・・・たそ、)

殴られていないこちらが、思わず顔をしかめるほどにいい音が鳴った

体育委員会委員長をその場で小平太に返し、そういえば長次には委員長を返してないと思い出したのだが
本人がいいに来ていないのだから、もしかしたら委員長をやりたくないのかもしれないと考え
それより会計委員はまだ和解していないのかと、会計委員が使用している部屋へ足を進めた

(そしてまさかの土下座再び。)

昨日の仙蔵の謝罪シーンといい、同じ組であるい組の土下座なんてみたいものじゃない
少し開けた隙間から見える文次郎と三木ヱ門の土下座から目を背け、ゆっくりゆっくりその場から離れる

(間が悪いのか・・・なんなのか。)
「***。」
「ちょっ、長次っ・・・!」

真後ろに長次がいるのに気づかないほど、気配を消して逃げることに神経を集中させていて
その反動か、長次に話しかけられ声をあげてしまった

「誰かいるのか?・・・***と長次か、」

すっと開いた戸から文次郎が顔を出し、こちらをみた

「・・・・・・みてたのか?」
「え、何を?」

動揺を察知したのか、眉間に皺を刻んだ文次郎が近付いてくる

「・・・まぁいい。***。」
「なに?」
「俺は、また会計委員会委員長をやりてぇ。」
「あ、いいよ。」

すんなり頷いたのに驚いたのか、眉間の皺が消えた文次郎に笑う
長次もだよね?とそのまま尋ねれば、長次が頷いた

「これで、終わり。」
「なにがだ?」

文次郎の問いに、ぐっと伸びをして深く息を吐いた

「火薬を兵助に、学級を三郎に、生物を八に、作法を仙蔵に、保健を伊作に、用具を留三郎に、体育を小平太に、図書を長次に、会計を文次郎に。全部の委員会が元に戻って、私は前と同じく無所属に戻った。」

ちょっと寂しいな。と漏らしてしまった言葉に、自分でもはっとする
誤魔化すように笑えば、長次に頭を撫でられた

「ありがとう。・・・後輩たちを守り、学園を守ってくれて。」
「・・・なんか恥ずかしいので、逃げます。」

シュバッと本気を出して逃げたあと、長次と文次郎が顔を見合わせ笑ったのをみたのは
こっそり様子をみていた会計委員の面々だった




夜の山にはまだ人は多いが、曲者の姿はみられなくなった

朝食の場では上級生と下級生が仲良く食事をしているし

授業は欠席がおらず捗る

委員会も前のように賑わいを見せていた



いつも通りの学園を背に、***は呼び出しの手紙を片手に帰路についた