42 落ち着いて

「***先輩!」
「竹谷先輩が!!」

なぜ早朝に生物委員が。とは今は聞くべきではなさそうだ
一年のそばに孫兵をおろし、すぐにその先へ向かった

「八!」
「え、***先輩・・・?」

腕を深く狼に咬まれている八左ヱ門は、血の気のない顔をこちらへ向ける
理由はわからないが、狼は気が立っているし、他の生物も警戒しているようだ

「離れなさい。」

ピシャリと一言
それですんなり牙を抜き座った狼の頭を少し撫で、八左ヱ門の腕をとる
少し動かすだけで激痛がはしるのか、荒い息と呻き声にため息がもれた

「保健室にいくよ。」
「いえっ・・・まだ、あいつらに・・・っ、」
「意見を聞いてるんじゃない。決定を伝えてるの。」

とりあえず止血だと、被っていた頭巾で腕をキツく縛り
問答無用で抱き上げるが、八左ヱ門は怪我をしているとは思えない抵抗をし始めた

「おろしてくださいっ、俺っ・・・」
「ちょ、」

背は八左ヱ門より高いが、ガタイは八左ヱ門のほうがいい
抵抗されれば拘束しているでもないため、一緒に倒れてしまう

「俺、あいつらに許して」

バチン!!といい音が響いた
驚いたのは叩かれた八左ヱ門だけではなく、その場にいた叩いた本人である孫兵以外全員だ

「いい加減にして下さい!!」
「ま、孫兵、」
「あいつらを捨てたのは竹谷先輩です!今更っ・・・今更許してくれの一言で誰が許すと言うのですか!!」
「孫兵、落ち着いて。」
「一平は竹谷先輩にしか懐いていなかった狼に咬まれました。」
「孫兵。」
「***先輩がおられなければっ・・・脚だけでは済まなかったかもしれないんです!!」

目が醒めたのか、ぱちぱちと瞬きをした八左ヱ門は
ふらふらと立ち上がり、けれどそのまま貧血で倒れた



「いっ、」

傷の痛みで顔をしかめながら目を覚ました八左ヱ門は、そばで薬を煎じているこちらをみてガバッと起き上がった
途端に走った痛みに腕をおさえるも、***先輩、と小さく呼ばれる

「なに?」
「ご迷惑を、おかけしました。」
「問題ないよ。数馬、できたよ。」
「ありがとうございます!あのこれもお願いします。」

手を休めず薬を煎じながらも、ねぇ。と八左ヱ門に話しかける

「はい、」
「孫兵はね、もう少しで腕が使い物にならなくなるところだったんだって。怖かったと思うよ。」
「そ、んな・・・ですが、孫兵は虫獣遁に長けて」
「一つ、あの狼は八にしか懐いていなかった。二つ、主人である八が姿を見せず学園には不穏な空気が漂っていた。あの狼は十分なストレスを感じていて、気が立っていた。」

人に牙を向けるのは当たり前じゃないかな?と笑いかければ
八左ヱ門は視線を泳がせ、かけられていた布団をギュッと握った

「少し意地悪だったかな?」
「・・・いえ、」
「まぁ、生物委員に戻りたければいつでも言ってね。」
「え、」
「あれ、聞いてない?」

キョトンとしてこちらをみる八左ヱ門の頭を撫で、鉢に目を向けた

「委員長と委員長代理は、委員会を除名されてるから。復帰は私に申し出てくれないといけないの。」
「!あ、あの、***先輩っ、俺生物委員に戻りたいです!!孫兵たちと、また仲良くしたいんです!」

八左ヱ門の台詞に、鉢で薬草をすりつぶしながら笑った