41 静かな長屋、騒がしい山

刀を腰にさしながら部屋から出れば、小さな気配に横を向く
時刻は夜。現に、横にいる庄左ヱ門と彦四郎は寝間着だ
どうしたの?と尋ねれば、***先輩。とハッキリとした声で呼ばれる

「なに?」
「***先輩は、鉢屋先輩と尾浜先輩にまだ怒っていますか?」
「君達がもう気にしていないと言うのなら、私はそれを尊重するよ。」
「よかった、」
「勘右衛門はいいんだけど、三郎は委員会を除名しちゃってるから・・・本人が私に地位の回復や委員会への復帰を願わない限り委員会には入れないよ。」
「えっ!?」
「じゃ、じゃぁ早く言わないと!」

一年生は素直で優しい。それを実感しながら
二人の頭を優しく撫でる

「三郎にだけじゃなく、他の委員長や委員会代理の耳に入るように噂を流してくれる?」

元気よく返事をしてくれた二人は、静かな六年長屋から一年長屋に帰っていった

(静か・・・だな、)

上級生は皆、二月弱を取り戻すために昼夜鍛錬に励まなくてはいけない
これなら見回らなくても良さそうだが、一応

「行きますか。」

そう言って、塀を乗り越え山へ入った

至る所で鍛錬をする上級生をみかけるも、気配を消しているこちらに気づく様子はない
鈍痛のする腕と脚を庇いながら裏々々山までくれば、背後から飛んできた戦輪を刀で受ける
真上に弾き、回転がなくなり落ちてきた戦輪を受け止め
戦輪の飛んできた方へ向かう

「輪子っ、」
「やっぱり滝夜叉丸だ。」
「うわぁっ!!」

驚かせてはいけないと正面に降りたったにも関わらず、胸部を押さえながら飛び退いた滝夜叉丸に笑ってしまう

「***先輩っ、び、びっくり、しました・・・***先輩!」
「わっ、」

これ。と差し出した戦輪を受け取るでもなく、滝夜叉丸が胸に飛び込んできたため
持っている戦輪で傷つけないよう気をつけながら、抱きついている滝夜叉丸を抱き締める

「どうしたの?」
「先輩っ!***先輩っ、申し訳ありませんでした!!」
「それが戦輪が私を背後から襲った件についてなら、謝罪は受け入れます。」

キョトンとした滝夜叉丸が、サァッと青ざめ勢いよく離れると、手にしている戦輪をみて深く頭を下げた

「す、すいませ」
「いや、うん。さっに謝罪されたし、わざとじゃないならいいよ。」

顔をおあげと促せば、怖ず怖ずと滝夜叉丸がこちらをみる
そんな滝夜叉丸に戦輪をかえす

「練習?」
「・・・はい。輪子を、うまく受け止められなくなっていて・・・・・・」
「だから、こんなに傷だらけなんだね。」

そっと滝夜叉丸の手をとれば、掠っただけものから少し深めに切れている傷もある
傷だらけの手をそっと両手で包み、程ほどにね。と笑う

「じゃぁ私はこれで。」
「は、はい!」

ぐっと膝を曲げ跳べば、木の枝に飛び移り
そのまま見回りを再開し、鍛錬は朝まで続いた

空が白むのと同じに汚れを洗い流し自室へ戻ると
朝食までの時間に生物委員会の仕事を少しやってしまおうと、飼育小屋の方へ足を向けた
生物委員はハッキリいって、孫兵さえいればなんとかなる
脱走の件については確かに人手がいるので手伝いはするが

「まぁ楽しいからいいか。」

動物達は初日の狼への威嚇の余波で従順だし、脱走をしなくなった
生物委員の一年は凄いと感激していたが、八左ヱ門でも出来そうなものだ

孫兵は生物に対して愛情を持ちすぎているから、少し厳しいかもしれない

なんて考えていたら、目の前から息を切らした孫兵が全力で走ってくる
何事かとこちらも走れば、すぐに来て下さいと手を取られだが
飼育小屋のほうへ走る姿は随分と必死で、急いだ方がいいだろうと孫兵を抱き上げ走った