ここだよ。と部屋にきり丸をいれれば、座らせ饅頭を渡す
「・・・頂きます。」
元気ない。というより暗い
表情も、雰囲気も
「アルバイトで失敗でもした?」
「いえ・・・」
あむあむと饅頭を食べる姿が、引きこもっていた姿に少し似ていた
「今日は、図書委員の当番で・・・・・・それで、能勢久作先輩と怪士丸と一緒に図書室に・・・能勢先輩は、巻物の修繕を、していて・・・」
確かにやり方を教えて頼んだ。簡単なものだけ
「・・・おれ、逃げてきたんです。」
「図書室から?」
「はい。・・・中在家先輩と不破先輩がいらして、おれたちに謝罪を・・・・・・能勢先輩も怪士丸も、先輩方に泣きながら抱きついて、戻ってきてくれて良かったって・・・・・・」
きり丸の手にある饅頭がぐしゃりと潰れ、あんこが広がる
両手にあんこがつき、饅頭の皮もこびりつく
そこに、ポツ。と雫が落ちた
「・・・きり丸。おいで。」
パタタ、と床も濡らし唇を噛み締めて泣く様は見られたものじゃない
おいで。といいながらも、手首をつかみ引き寄せ強引に抱きしめた
「っ!***先輩っ、おれっ!おれ、まだ、覚えてるんすよ!先輩方がよかったなって、天女様に同意したあの日のこと!」
寡黙で表情らしい表情がない。けれど母親のように懐深く優しい長次
大雑把なくせに悩み癖がある。けれど父親のようにあたたかく優しい雷蔵
二人を慕っていたきり丸の精神的苦痛は計り知れない
優しい二人が、いつまたああなるか
しゃくりをあげながらも心の内を曝してくれるきり丸を抱き締めたまま、トントンと一定のリズムで背中をたたく
「おれっ、怖いんすよ・・・」
戸の向こう。つまり廊下にある二つの気配は、さっきから動かない
きり丸の独白に似た言葉の途中からある影は、長次と雷蔵だろう
「きり丸は、二人が嫌い?」
「嫌いじゃないです・・・」
「好きでもない?」
「・・・わかんないっす・・・・・・先輩は、どうっすか?」
どうとは、随分ザックリとした聞き方をしてくれる
そうだねぇと考えて、笑顔を向けた
「長次と雷蔵だけじゃない。タカ丸君を除く上級生には・・・うん、少し、近寄りたくないな・・・」
明らかな動揺が襖一枚で隔てていても伝わってくる
「なにかされたんスか?」
「私が皆と元通りになったら、きり丸は何を思う?」
「・・・食事も睡眠も削って忙しくして、きっとありがとうなんて言われてないと思うんです。なのに、許してるなら、おれも・・・」
「そうそれ。私が元通りになれば、下級生は許したくないという思いを抑えてしまうかもしれない。逆に私が避ければ、許したいのに遠慮してしまうかもしれない。」
「だから、近寄りたくないんすか?」
「そう。向こうからくるぶんにはいいけどね。」
色から抜けても面倒だよね。と苦笑い
外に増えた気配にも構わず、きり丸の頭を撫でながら話す
「先輩大人っスね。」
きり丸の呟きにどこが?と首を傾げれば、もう泣いてないきり丸と見つめ合う
「おれ、少しずつ・・・また話せるようになりたいです。」
「うん。二人も、待っててくれるよ。」
ね、二人共。と矢羽音をとばせば、もちろんだと一言
部屋の前から気配が遠ざかった