冬の仲間
「指で摘まんだら潰せそうだよね。リンリンリンリン煩いし、なんなんすか?これ。」
「妖精だ。」
「よーせー・・・へぇ、どんな?」

棒でつつかれた妖精はつかんだ檻にパリパリパリと霜を張らせ、クザンはお!と声をあげて指先を凍らせた。少しだけ。店主にばれないように

「だいぶ弱ってるな。」
「折角珍しいもんなのになァ・・・こう弱ってちゃ、買われた先ですぐ死んじまう。それでクレーム受けんのも嫌だしな。天竜人相手じゃあこっちが奴隷だ。」
「へェ。」
「それでも、興味があるかい?」

売るモードへ入った店主に力なく指先をしゃぶる妖精を見たクザンは握っていた汚れた札束の代わりに籠から出された妖精を握る
握られた場所から凍りついていく妖精はぬるま湯に浸かったかのように吐息を漏らし、完全に凍りつく寸前に感謝を述べるように笑った

「可愛いな、お前。」


家と呼ぶには粗末な寝床へ戻ったクザンはボンッと傘を広げて敷き詰めた段ボールの上に置いてから、まるまるように妖精を抱き締めながら眠る
なけなしの金はすべてこの妖精に注ぎ込んだ。海賊相手から奪った金だ、綺麗なものではない
それでも、独りきりでなくなるなら今日の空腹は耐えられる

「リン」
「・・・ん?」
「リンリン」
「ああ・・・溶けた?」

子どもの体温と穴だらけの傘から注がれた陽射しで、どのくらい寝ていたか分からないが溶けたらしい
まだ霜でコーティングされているような体に嬉しそうにリンリンと鳴く妖精は、萎れていたはずの翅を羽ばたかせくるりと回った

「きれいだな。」
「リン!」
「ははっ!嬉しい?」

クザンは傘を畳んでから周りに張られた氷を割るように歩き、行こうかと肩に妖精を座らせる
能力の制御が上手く出来ないクザンは起きる度に周りを凍らせるが、氷結人間であるクザンにはその寒さがわからない。それに、妖精は寒ければ寒いほど活発になるのだ。意識があるときは制御が利くのだからと、クザンは努力をポイと放り投げた

「お前さ、何ができんの?」
「リン?」
「おれはね、こーんなことだってできんだ!」

どうだ!と海へ出て氷塊を幾つも作りあげ、妖精は楽しそうにそれを氷像へと加工する
今この瞬間の楽しそうなクザンを模した氷像の頬に、妖精はリンリンと鳴きながらキスをしてまたクザンの肩へと戻った

「すっげ・・・なあ、悪魔の実食ったの?なんの実?おれね、ヒエヒエの実を食べた氷結人間!自然系なんだ。強そうだろ?」
「リンリン!」

同意するように鳴いて、妖精はクザンの毛先を霜でコーティングして落ちていた氷の欠片を氷の結晶へと加工する
クザンは両手を伸ばして妖精を包み込むと、何でもいいと呟いた

「おれと一緒だよな。・・・自然系、じゃなくて超人系に見えるけど、おんなじだ。それに、おれがいないと困るだろ?」
「リン!」

ぽいと岸へ放られた妖精は温かな風に慌ててクザンの肩へ戻り、ぷくりと頬を膨らます
クザンは笑いながら妖精がいるところだけを氷化させ、妖精が心地よさにほんわかした笑顔を向けてくるのに同じような笑顔を返した




子クザンと冬の妖精のお話し。