月の魔法


月だ。
独りごちて空を見上げる。
背後の駐車場では、軍葬に参加した同僚達が次々車に乗り込んで行く。

「お前誰の車で来たんだよ」
「アルベルト」
「あー、じゃあもうちっと時間かかるな。乗ってくか?」
「先行ってくれよ。俺適当に時間潰すから」

同じ整備班の同僚を見送り、再び空を見上げた。海が見渡せる小高い丘。満月は寒気がするくらい綺麗で、暗い海を淡々と照らしている。
エンジン音とタイヤの摩擦音が数分続き、その後駐車場は無音になった。暗闇の中取り残されても不思議と寂しさは感じない。
取り囲む柵に手をかけ、身を乗り出してみる。昼間あれだけ強かった風も今では弱まり、遠くからでも波の音がよく届いた。
空と海。見飽きるくらい馴染みある景色を交互に見比べ、瞳を閉じ、また開ける。

(やっぱりよく似てる)

空に走る飛行機雲を見上げた後海を見下ろし、よく思った。似ている。空も海も、全て終わりの見えない青。違いは、浮かんで走る雲と、満ちて引く水の存在。
それは青が消えた夜でも変わらない。夜は、海に月が線を引く。
青空を走る飛行機雲の代わりに、海を月明かりが横切って行く。一面の途方もない一色に、何もかもを跳ね返す白が一筋走る光景。
彼等はいつだって道標を作って行く。自分の走り抜けた証を。いずれ沈むかもしれないあの空に。

馬鹿過ぎる。一人で噴き出して、空からも海からも視線を逸らす。
ただの海と月明かりにまで飛行機雲を思い起こして。
真ん丸なお月さんみてぇだな。酔った時かけられた言葉が脳裏を過ぎって、瞼に触れてみた。指先に生暖かい液体が触れて、口の端から流れ込んで来た。
黒い髪、金色の瞳。夜の海と同じ色をしたこの姿が、月明かりに照らされる。

舌を震わす水の味は、海水と同じくらい塩辛い。


(月の魔法に、全て暴かれる)





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