風の行方


靡く髪を両手で押さえる。いつもよりきつく束ねたのに、今日の風は本当に強い。
遠い鐘の音に風が重なって、小さな音が余計に遠くなる。

ねえ、何処に行くの。
沢山の白い墓標が並ぶ緑の上を、悲鳴に似た声を上げながら風が走って行く。
空にちょっとだけ似た風景だけど。あの人はきっと「青じゃねぇ」と文句を言う。爽やかな青色のガラじゃないって、軍服の配色にいつも文句を言ってたのに。何だかんだ言ってあの色が好きだったんでしょう?

また風が吹いて、誰かの軍帽が飛ばされた。沢山の人がいつも被らない帽子を被って、そうそう着ないコートを羽織って、小さなお墓の前に佇んでいたけれど。
いつまでもこのままじゃ駄目なんだと、風が背中を押したように、みんな少しずつ足を動かし始めた。

「フアナちゃん、もうちょっといる?」

風じゃなく、ジャンの声が私のきっかけになる。振り向いてみんなの顔を見て、ううん、とだけ言って、いつもより高くてちょっとだけ歩きにくいヒールで芝生を蹴った。

視界の隅で鳥が羽ばたく。風を受けて、導かれるように空へと消えて行った。
私達には戦闘機があるけれど、あの人にはもう何もない。体がなくなって、魂だけになって、羽をあげると言われても必要ないって断るんだろう。
そんな物なくたってきっと勝手に空が呼んで来る。墓標は終の住処じゃない。
帰る場所も居場所も、空にあるのだから。

でも、どうせなら一緒に連れて行って。鳥と一緒に、ずっとずっと高い空に押し上げて。
顔も知らない古い仲間が待ちわびているだろうから、一分一秒でも早く。

ちょっとくらい強く吹いても大丈夫。
私達の縋り付く思いは、緑色の上に縛っておくから。


(風の行方は追わないで)





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