- ナノ -


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 いつでもできることって、結局しなかったりするよね、と彼女。その手には、香ばしいにおいのする紙袋が収まっている。ところで、それはなんだ? と竜が聞けば、焼き菓子よ、と彼女が答える。気になってたお店、いつでも行けると思ったら行きそびれそうだから、行ってきたの。ひとついる?
 竜は頷き、照れながらも目を輝かせて言った。その、これに関しては、もう機会がないかもしれないからな。彼女は笑いながら言う。またとないチャンスを逃さないのも大事だもんね、と。


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