- ナノ -


船出

 まさかおまえが退職するとはな、と同期が言った。デスクの上を片付けていた僕は、なんだか急に照れくさくなりながら言葉を返す。ここはいい会社だったよ。でも、ちょっとやりたいことができたんだ。簡単な道じゃないし、うまくいくかわからないけど。すると同期はおもむろに、自分のデスクに飾ってある小さなボトルシップを手に取り呟いた。船は港にいるとき最も安全だが、それは船が造られた目的ではない。普段の同期らしくもない改まったもの言いに、僕は思わず吹き出した。それ、誰の言葉? 同期はにやりと笑う。忘れた。でも、おまえは港から旅立っていくんだな。餞別、と同期から渡されたそのボトルシップは、よく手入れがされていてぴかぴかだった。ありがとう、と僕は言った。目が潤んだ。



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