- ナノ -


二人

 急に降り出した雨。傘を持っていなかった僕は、近くの店の軒先に慌てて駆け込む。そこには先客がいた。スーツ姿の女性だ。手持ち無沙汰にかこつけて、僕は彼女に話しかける。
 雨、なかなかやみませんね。
 彼女は僕のほうを少し見て、頷く。そして口の端を綻ばせた。どうしましたか、と尋ねた僕に、彼女は言った。いま思い出したの。ちっちゃな頃、今日みたいにいきなり雨が降り出して、お店の軒先で雨宿りしたこと。そのときも後からやってきたひととしばらく話をしたのよ。
 奇遇ですね、と僕は言った。僕もこどものとき、突然の雨で雨宿りして、先に軒先にいたひととたのしくおしゃべりをしたことがある。たしか、その子はちょっと変わった猫のキャラクターのぬいぐるみを大切に持っていました。
 そんなことを話していると、いつしか雨が上がっていた。じゃあ、と僕たちは別れた。彼女の持っていた鞄には、あの猫のキャラクターの小さなマスコットが揺れていた。



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