- ナノ -


312

 転んで膝を擦りむいたときも、風邪で熱が続くときも、彼女の母親はお守りを貸してくれた。少しごつごつしていて、頑丈で平べったく、片手で握ることのできるほどの大きさ。上の方に穴が空いており、首から下げられるよう紐が通してあった。聞けば、母は祖母から譲り受け、祖母は曾祖母から受け継いだものらしい。竜の鱗、と語り継がれているそれは、助からないと思われた先祖の病を癒したそうだ。真偽のほどはわからない。けれども彼女は、それに触れるたび、不思議と何かの息遣いを感じるような気がするのだった。


[ ]