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- ナノ -


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 眼下に緑の王国が見えてきた。この国のことを、竜は知っている。昔、この場所は乾いた土の広がる痩せた土地だった。あるとき、大地の力を引き出すことのできる竜が、ここへたどり着いた。竜が一輪の花を咲かせると、人々の顔には笑顔が蘇った。竜は花だけでなく、あらゆる草木、植物をその力で育てた。人々が身を寄せ合うようにして暮らしていた村は、大地の恵みを受け、街となり、やがて様々な地方から人々の集まる国となった。竜は神と呼ばれた。国の中心に立った城の、最も絢爛な間を与えられ、毎日、贅を尽くした接待を受けた。そう、ひとりぼっちで。
 もう、花や草木を育てることもできない。もう、最初の花を咲かせたときのように、誰かを笑顔にすることもない。竜は次第に元気をなくし、そして、ある朝、竜仕えの人々が竜の間に来てみると、その姿を忽然と消していたのだった。
 竜がどこへ行ったのか、知る者は誰もいない。ただ、国じゅうの草木は、思い出のなかの竜から力をもらうように、いまでもその緑をかがやかせているのだという。


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