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- ナノ -


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 もし、私が竜なら、と彼女は言った。遠く離れた国へ旅立ったあのひとに、会いに行くことができるのに。遥かに続く冴え渡った空を臨む彼女は、凛とした表情でありながら、どこか、切なそうに見えた。たとえ竜であっても、一飛びとはいかないこともある。竜は彼女の小さな背を見ながら言った。だが、そう思える相手がいるのは、このうえなくすばらしいことだ。彼女は竜の方を振り返らないまま、ちいさくうなずいた。
 太陽が彼女の背に、あたたかなひかりを投げかけていた。


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