- ナノ -


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 飛ばなくなって久しいというのに、竜は時折、翼を広げて風を通した。無数の傷。破れ目。それは歳を重ねて古くなったというよりは、歴史であった。竜が見たもの、出会った誰かが、湧きあがるように思い出される。そういった何かだ。
 もう一度はばたく時は、その時が来ればすぐにわかるだろう。竜にはそんな予感がした。


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