- ナノ -


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 やっと会いに行ける、と彼女は言った。随分と前、仕事で別の国へ行ってしまった恋人にもう一度会うために、彼女は必死に練習して竜に乗ることができるようになった。今日は待ちに待った、その出発の日だ。
 本当に行くのか。竜は一度だけ、念を押すように彼女に聞いた。彼女はもちろん、と頷く。そして最近、彼から届いた手紙を大事そうに撫でた。
 三日三晩の空の旅の後、その国に着いた彼女は、人々の話で彼が既に結婚していることを知った。嘘つき。たったひと言呟いた彼女の手の中で、彼の手紙がぐしゃりと音を立てた。


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