- ナノ -


849

 元は光るような美しさを放っていただろう白い壁の家々が、風雨に晒され、朽ちて壊れたり屋根が落ちたりしている。今の住民は植物だ。窓や壁の亀裂など、至る所から青々とした草が顔を出している。
 この国ではずっと昔、竜に感染症が広まった。人々は彼らを見捨てられず、懸命に治療が試みられたが、決定的な対処法は見つからなかった。やがて病は竜から人のあいだにも広がり、成す術もなく国は滅んだ。
 風が草を揺らした。騒めきが一瞬、あたりに満ちた。在りし日の竜や人々が会話をするように。


[