- ナノ -


830

 竜は青空の一点を見つめていた。どうしたの、と人が問う。龍を見ている、との返事に、人も空を見た。……一面の青があるだけだ。
 どこにも龍なんていないよ。人が不思議そうに呟く。竜は静かに首を振って言った。腹、尾の裏、首、手足が空の色と同じなのだ、と。
 その通り、と答えるかのように、竜の視線の先で空の一部分がきらりと光った。龍の鱗が光に反射したのだ。人はあっと息を呑む。そして、自然の隠し絵だね、と笑った。


[