- ナノ -
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昔、夕刻の海は青々とした色を保ったままだった。あるとき、その海の上を竜が飛んでいた。燃えるような橙の空を進むうちに、竜の胸はしくしくと締め付けられ、瞳から涙が溢れた。
空と同じ橙をした涙が落ちると、そのあたりから海が明るい色を帯び始め、静かに全体へ広がっていった。かくして、海も夕刻には橙の光を宿すようになった、という。
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