- ナノ -


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 このままどこか、遠くに連れていってくれない。竜の背の上で彼女は呟く。竜が何もこたえないでいると、顔をあげて笑った。なあんてね、ちょっと言ってみただけ。お空があんまりきれいだから。
 数日後、街に彼女はいなかった。他国の誰かと婚礼を挙げるため、馬車で発ったのだという。竜は彼女を乗せて飛んだ空を見上げた。小さな綿雲がぽつりとひとつ、やけに青い空に浮かんでいた。


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