- ナノ -


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 石造りの建物が並んでいる。時折、上空から鳥の声が聞こえてくるだけで、人気もなくしんと静かだ。そんな場所に、灰色の竜が住んでいた。ここで昔暮らしていた人々は文字を持たなかった。彼らの代わりにその記憶を引き継ぎ、語り継いできたのがこの竜である。
 行きずりの竜に彼らの話をする。久方ぶりに聞いてもらえてよかった、と年老いた竜は微かな笑みを浮かべた。雲間から一筋の光が落ち、石の町を照らした。


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