- ナノ -


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 化かし甲斐があったんだけどねえ、人間。九尾狐がくくく、と笑う。でもまあ、そろそろ潮時かもしれないね。私らは忘れられてゆくのだろうさ。
 山の麓の人里を見下ろしながら、九尾狐は愉快そうにしている。しかしその瞳の奥に──喩えるなら、沈む陽の如き哀か──切なげな光が閃いたように見えた。
 美しい景色だな、と竜も人里を眺めて言った。九尾狐は、そうだろ、と自慢げにこたえた。


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