- ナノ -
651
化かし甲斐があったんだけどねえ、人間。九尾狐がくくく、と笑う。でもまあ、そろそろ潮時かもしれないね。私らは忘れられてゆくのだろうさ。
山の麓の人里を見下ろしながら、九尾狐は愉快そうにしている。しかしその瞳の奥に──喩えるなら、沈む陽の如き哀か──切なげな光が閃いたように見えた。
美しい景色だな、と竜も人里を眺めて言った。九尾狐は、そうだろ、と自慢げにこたえた。
[
←
〇
→
]