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ふりそで奇譚
2017/02/27 23:36

みなさんこんばんは。しんです。
はやいもので、歳の離れた妹も、来年にはいよいよ成人式を迎えます。
「このふりそでに決めたよー!」
と、写真つきで舞いこんだ、妹からの連絡。
その連絡に、
「ああ、妹も晴れておとなになるんだなあ」
と、しみじみ思いをめぐらす姉。
なんというか、姉妹というよりは、そう、ちょっとだけおかあさんの気持ちです。
私には、妹がまだほんのあかんぼうだったときの記憶がバッチリ残っています。
ベビーベッドのなかでほやほやと泣いていたあの妹が、もう立派な大学生で、
来年にはハタチかと思うと、なんだか時が経つのははやいなあとあらためて思います。

さて、成人式のふりそで選びといえば、私もなかなか思い出深いものがあります。
大学でのふりそで展示会、各着物屋さんの展示会、
はてはなぜか次々と自宅に届く、さまざまな企業からのふりそでパンフレット……
出席する成人式の一年以上も前から、ふりそで選びはすでにして幕をあげているのです。
いまでは、自分のふりそでを「買って持つ」ということはなかなか少ないものです。
つまり、「成人式だけふりそでをレンタルする」というかたちが、現在は主流。
と、なると、はやり柄のふりそでや、たくさんのひとが「いいな!」と思うふりそでは、
時間が経つにつれ、どんどんと「予約済」になっていくというこのきびしさ。
きっと、そういうこともあるので、ふりそで選びはうんとはやい時期からスタートしていくというところもあるのでしょうね。
私も、そんなかなりはやめのスタートにびっくりしつつ、一生に一度の晴れ舞台を共にする「ベスト」な相棒……もとい、ふりそでを探し始めたわけでして。
しかし、これだ! というものになかなかめぐりあえないこの難しさ。
それならば、と、七五三など、妹ともどもいままで数々の節目でお世話になってきた着物屋さんへ、母といっしょに行ってみました。
まるで「待ってました」とばかりに、ずらりと部屋に並んだふりそでの数々。
あわい色、濃いめの色。クラシックな柄に、わりあい現代風の大きな模様の入ったふりそで。
色づかい、柄の種類、模様の入れぐあい、……多種多様なふりそでが並んだその光景は、鮮やかでにぎやかで、ながめているだけでもこころ楽しくなります。
そしてそのなかに、ひときわ異彩を放つふりそでがありました。
「あ、あのふりそで、すごいね……!」
思わず母と注目してしまったふりそでは、ショッキングピンクならぬ、「ショッキングスカイブルー」とでも形容してしまいたくなる逸品。
光をあびて目をさしつらぬくばかりの強いスカイブルーの輝き。それを背景に、鮮やかに浮かびあがるたくさんの青のばら。
寒色系のおとなしさなど、どこ吹く風。瞬時に見るものの目を奪う、非常にまぶしいふりそででした。
たしかにきれいなのですが、ふりそで自体の存在感が強く、いったい誰があのふりそでを着られるんだろうとそればかりが気になります。
「よかったら、ご試着してみますか?」
視線が吸い寄せられていたのをお店のかたに見抜かれてしまったようです。
いやはや、私にはこんなきらびやかな着物なんてにあいもしないだろう……
けれど着てみるのはタダだし、せっかくだから着てみるか……と、
ほかにも数着のふりそでを選んで、お店のかたに簡単な着付けをお頼みすることにしました。


そして数分後。
そこには、まさかまさかの展開に、思わずことばを失う母と私がいました。

「いやあ……これは、よくおにあいですよ……!」

そういうお店のかたのことばが、オセジやらハゲマシやらでなくて、なんとういうかこう、すなおにすっとこころに溶けこんでいくほどには、しっくりくるものがあって、
私も、母も、

「これはアリだ」「アリどころか、このふりそでがいちばんいいかもしれない」。

……あの、いったい誰が着るんだろうと思っていたショッキングスカイブルーのふりそでを、すっかり気に入ってしまっていたのでした。


衝撃的な出会いとともに私の脳裏に深く刻み込まれた例のふりそでは、
他の着物屋さんのふりそでや、家に届くパンフレットを見ても存在をまったく薄れさせませんでした。
もともと、すてきなふりそでだなあ、とは思っていたんです。
スカイブルーは大好きな色ですし、あんなにきれいな青色のふりそでを着られるのなら、どんなに楽しいことだろうと。
ただ、私には合わないだろうな……とそう、思っていた。
そこに、ふしぎなほど身になじんだという、まさにとてもうれしいできごとが降ってきたわけです。容易に忘れられるわけがありません。
他にいいな、と思うふりそでが現れても、頭のどこかであのショッキングスカイブルーのふりそでがちらちらと姿をのぞかせて、最終的には、
「ごめん! 浮気しない! 私はやっぱりあなたを着て成人式に出たい!!」
……と、相成るのでした。
かくして、成人式当日は、めでたく私が「ひとめぼれ」したショッキングスカイブルーのふりそでを着て、おとなの仲間入りを果たしたのでした。

ひととひととの出会いもそうなのですが、ひとと着物との出会いも「一期一会」なのかもしれませんね。
自分が「好きだ!」と思える着物を見つけて、それを着ることは、なんにせよ、とても心が躍るし、すてきなことだなあ、と思います。
着物を着る機会はなかなかなくなってきているものの、もしチャンスがあれば、みなさんもこれぞ! という着物を、こころゆくまで探してみてください。
そしてそんな着物が見つかったら、「にあわないかもしれない……」と諦める前に、レッツ・チャレンジ、ですよ!
着てみるまでわかりません、どんどん着てみるのが吉です。
みなさんにもよい着物との出会いがありますように。

それでは本日は、このあたりで。
おやすみなさいませ。


管理人  ひらい しん



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