★06.運命が僕らを許さないのなら、僕はそれを運命とは信じない

「……グリフィンドールの監督生がなにか用かしら」
「参ったな、俺はビル・ウィーズリーとして来たんだけど」
「なにかしら」
「杖、返さなきゃと思って」

 走り回った挙句、薄暗くなった湖のほとりでナマエを見つけた。話しかけてみれば案の定不機嫌な様子でそれを隠そうともしていない。隣に腰掛けて杖を渡すと、奪うように持って行かれた。そういえば少し頬がはれている。ローブのポケットから真新しいハンカチを出し、呪文で水を出して湿らせる。それを差し出すと、さっきとはうってかわって申し訳なさそうな顔をしていた。

「……ごめんなさい。あなたに当たるのは間違いね」
「杖を取り出した時はさすがに焦ったよ」
「殺されるって?」
「まさか」
「武装解除、うまいわね。私は弾き飛ばすことしかできないから」
「お褒めに預かり光栄だ」

 さっき俺の目の前にいた彼女はどこにもいない。目の前にいるのは俺が知ってるナマエで、それがただただうれしかった。

「ビル・ウィーズリーとして来たけど、先に監督生として謝っておく。さっきはうちの寮の生徒が悪かった」
「いいのよ、嫌われ役は慣れてるから。むしろ私で良かったわ」

 自嘲気味のナマエの横顔に、心が痛む。そんなことに慣れる必要なんてないのに、彼女が嫌われる理由なんて。

「ねえ、ビルは……。私が闇の魔法使いになると思う?」

 不安そうなナマエの声が、俺の感情を揺さぶってくる。どんな表情で問いかけたのは分からない。言い終わるのとほぼ同時に、気づけば彼女を抱きしめていた。抵抗する様子はないことを確認して、腕の力を強くする。

「俺はそう思わない。正直、君がスリザリンにいることだって信じられないのに」
「あら、本当?」
「だって、ナマエはこころがきれいだから」
「……ありがとう」

 声のトーンが、先ほどよりもやわらかい。俺に抱きしめられたままだった彼女が、俺の背中に手を回して言葉を続ける。

「私も、入学するまでスリザリンはあんまり好きじゃなかったの。お父様とお母様は純血主義だからスリザリンを望んでいたけど、私はそれを裏切ると思ってた。自分で言うのもなんだけど、狡猾だとは思ってなかったし、何かに執着することなんて後にも先にもないと思ってたから」

 けれど、組み分け帽子は彼女の意思とは反してスリザリンを告げた。ナマエならグリフィンドールでもハッフルパフでもレイブンクローでも、どこでもうまくやれただろう。そして何より、俺は彼女がスリザリンであることを信じられないんじゃなくて認められないんだ。コンパートメントで交わした言葉が、ずっと胸に引っかかってる。

「でも、入ってみればスリザリンもいいところよ。まさに住めば都、ね」
「それでも俺は」
「ちなみに、私、今ならどうしてスリザリンに組み分けられたか分かるわよ」
「なんで、」

 俺の言葉は、最後までは続かなかった。鼻孔をくすぐる甘い香水の香りと唇への感触に、なにが起こったか理解する。キスをしたのは初めてじゃないけれど、女の子からされるのは初めてだった。ナマエは唇を離すと、至近距離できれいに笑う。

「私と5年ぶりに話してどう思った? うわさになって、私の事意識してくれた?」
「……まさか、」
「クィディッチの怪我と今日の言い合いは偶然よ。私ね、好きな人を手に入れるためなら狡猾になれるみたい」
「君が、俺を?」
「そう。私が好きなのはビル・ウィーズリーただひとり、5年前からずっと」

 5年前から、なんて出会った時から? 俺が5年ぶりに話してナマエを意識していたのも、すべて彼女が仕組んでいたって? 何が何だか分からなくて、俺があっけに取られているとナマエは俺から数歩離れる。

「だけど、やっぱり私じゃだめみたいね」

 彼女の感情が俺には全然読めなかった。強がる声色とは裏腹に、今にも泣きそうな顔をしてる。泣きたいなら泣けばいい。ナマエを引き留めようと、腕でもローブでもなんでもいいから掴もうとした俺の手は空を切った。いつもこうだ。肝心な所で彼女の真意が分からない。彼女を理解したと、気持ちが分かったと思ったら、毒を残してするりと逃げる。

「……確かに、君はスリザリンらしいよ」

 つぶやいた言葉も、ナマエに聞こえる訳ないのに。

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