★04.チャイルド・ハート

 ナマエと初めて会ったのは、ホグワーツ行き特急列車の中だ。兄弟の中で一番最初にホグワーツにいくということもあって、知り合いが一人もいないというのはなかなかに心細かった。だけど俺がぐずっていては弟達に示しがつかないから、チャーリーにあいつらを任せて列車に乗る。空いてる席はあっさり見つかって、できるだけ列車内でも端の席をとったから始めのうちは誰も居ない空間で心を落ち着かせていた。



「ごめん、ここ空いてる?」

 コンパートメントの扉がノックされて、聞いてきたのがナマエだった。一人で静かに過ごしたいと考えていたわけでもないから、どうぞと促せば彼女は「ありがとう」と小さくつぶやく。そして俺の真正面の席に座るなり、眠りに入る準備をした。なんだ、ホグワーツにつくまでの間話でもしようと思ったのに。不意打ちを食らった気分で、列車が出てからもひたすら窓の外を眺めるだけ。
 一番の不安は、どの寮に入るかだった。両親がいうには、グリフィンドールが一番いいらしい。なにせふたりともグリフィンドール出身だ。……もし、スリザリンになったら? もう何度も聞いたスリザリンの寮のことを思い出すと、自然にため息が出ていたらしい。

「ため息なんてついてどうしたの?」
「あれ、起きてたの?」
「今起きたの」

 くあ、とまだ眠いのか彼女はあくびをして俺の目をじっと見る。寝起きの割にするどい視線が、彼女の第一印象。

「いや、どの寮に入るかなと思って」
「スリザリンはいや? ウィーズリー」
「、どうして」
「駅で聞いちゃったの。何より赤毛だし」

 自分の髪を人差し指に絡めて、俺の特徴的な赤毛をいう。

「……そうだね、できればスリザリンは避けたいかな。君は?」
「私は、楽しそうならどこへでも」

 そう言って、彼女はまた目を閉じた。さっきまであれだけぐっすり寝ていたのにまだ寝るのか、と呆れたのを確かに覚えている。それからローブに着替えに行き、戻ってくると彼女の姿がなく、数分後には制服に着替えた彼女が戻ってきた。体内時計は正確らしい。

「ねえ、もし寮が同じだったら仲良くしてね」
「違ったら?」
「うーん……。その寮によるかしら」

 グリフィンドールとスリザリンは仲が悪いでしょう?
 彼女は、あやしくもきれいに笑う。その笑顔は、同い年の女の子とは思えないほど背筋を凍らせた。

 それから、組分けの儀式で彼女の名前を知った。ミョウジ――俺でも知ってる、ブラックには及ばないが彼女も名高い純血一家のひとりだ。グリフィンドールとスリザリン、仲良くできるはずもない。始めの頃はお互い廊下ですれ違えば会釈くらいしていたけど、3年生になるころには目で追うのは俺だけ。彼女も、グリフィンドールを好いていないんだろうか。性格なんて周りの環境次第でいくらでも変わる。コンパートメントで会ったナマエはもういないのかも。
 5年生になって、俺はグリフィンドールの、ナマエはスリザリンの監督生になった。何の因果かと心のなかで笑っていたのが、まさかまた彼女と話す日が来るなんて。あの練習を偶然見かけて立ち止まったのは俺だけど、話しかけてきたのは彼女の方。君とこうやって話ができるのがとても嬉しいと、それだけで日常が少し輝いたと、そんなことを言ったら、彼女はいつものように笑ってくれるだろうか。

★戻る
HOME>TEXT(hp)>chameleon>04.チャイルド・ハート
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -