★03.住む世界が違う、なんて

 今日はグリフィンドールとスリザリンのクィディッチの試合。もちろん俺は自分の寮でありチャーリーがシーカーを務めるグリフィンドールの応援のために競技場に来た。それなのに目が追うのは、スリザリンの生徒の列に並ぶナマエ。クラブを持っているところを見て、初めて彼女がビーターだと知った。
 フーチ先生の掛け声で試合が始まり、最初にクアッフルを取ったのは我らがグリフィンドールだ。場内を飛び回るブラッジャーを両チームのビーターが殴り合い、チャーリーもあちらのシーカーもスニッチを探していた。

 開始からどれくらいの時間がたっただろうか。接戦を続けながら、未だにシーカーらはスニッチを見つけられずにいる。どこからか飛んできたブラッジャーがスリザリンのシーカーの方へ向かい、それに気づいたナマエが今まで以上にスピードを出してその方向へ向かう。シーカーもなんとか逃げまわっているが、追いつかれるのも時間の問題。寮を問わずにそこにいる全員が不安げに見ていると、間一髪間に合ったナマエがそれを力いっぱい打ち返した。
 しかし、その勢いで彼女の手からクラブが落ちる。重力に従い落ちていくクラブを拾いに行こうとしたところで、もうひとつのブラッジャーが彼女を襲った。なんとか避けたようだけれど、その勢いでホウキから落ちて数名の先生たちが立ち上がる。チャーリーの応援に来たはずなのに、やはり俺は彼女しか見えてなかった。マダム・ポンフリーに連れて行かれる彼女を心配する俺の耳に届いたのは、スリザリンの歓声とグリフィンドールの悔しそうな声だった。


* * *


「あら、お見舞い? グリフィンドールの人が来るなんて初めてよ」
「最近仲良くしてもらってるからね」
「ふふ、ありがとう」

 タイミングが良いのか悪いのか、ナマエはちょうどおどろおどろしい液体をマダム・ポンフリーに渡されていた。俺が来たからと気を利かせたのかは分からないが、マダムはこの場を去り残されたのはふたりだけ。彼女がカップに口をつけるところまでは優雅な動作だったけれど、その液体が口に入った瞬間苦さに眉根がよる。よほどまずいらしい。

「うえ……」
「大事はないの?」
「全身強打したけど、右手が折れた事以外はなんともないわ」

 全身強打が「なんともない」なんて、本当にクィディッチは危険と隣り合わせのゲームだ。その細い腕でブラッジャーを打ち返してるなんて、どこにそんな力があるんだろう。実はすごいパワーを秘めている、なんてことはなさそうだから彼女の技術の高さでなせる技なのかもしれない。

「ところで、チームの仲間は来ないのかい?」
「そうだと思うわよ」
「君が怪我したっていうのに?」
「感謝はしてるでしょうね。私の骨折と引き換えに勝てたんだもの」

 そう言って、彼女はきれいに笑った。あの太陽みたいな笑顔じゃない。きれいというよりは、はかないと言うべきだろうか。どうして笑うんだろう。いつも一緒にいる友達も、自分が守った仲間すら見舞いに来ない。落ち込んでたって不思議じゃないのに。


「私、あんまり好かれてないからね。というか嫌われてる。グリフィンドールと仲良くしてるんだもの」
「……ごめん」
「あら、謝らないでよ」

 うわさがたった時、彼女の周りにはやし立てるやつはいなかった。俺はてっきり彼女は信頼されてるからそうだと思っていたけど、事実はそことは真逆にあった。のけ者がなにをしようと関係ない、ってわけか。

「私、あなたとは仲良くしたいの。純血とかスリザリンとか、そういうところしか見えてない人と仲良くなろうなんて思ってないし」

 狡猾なものが集う寮、それがスリザリン。やっぱり何度考えても、彼女がそこに振り分けられた理由は思いつかなかった。

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