★1-3.始まってしまった物語

「おはようナマエ!」
「きゃあっ!」

 ホグワーツに入学して一日目。髪を整えていたアンジェリーナを置いて一人大広間でシリアルを食べていると急に後ろから抱きつかれた。いったい誰か、なんて考えなくてもすぐ分かる。聞き覚えのある声とこの悪く言えば馴れ馴れしさ、そして視界の端に映った赤毛はどう考えても私は二人しか知らない。ウィーズリーの双子のどちらかだ。

「えっと、おはよう」
「おはよう」
「……ごめんね、どっち?」

 見分けがつかないことに申し訳なさが出てきたけれど、分からないものは分からない。どちらなのか分からないまま話し続けてもそれはそれでとても失礼だから、あえてまっ先にその質問を投げかけて見ればフレッド君かジョージ君のどちらか分からない目の前の人物は急にニヤニヤと笑い出した。

「やっぱり俺よりナマエの髪の方が目立つ」
「あ、ジョージ君か」
「正解!」
「っていうか、絶対ジョージ君の方が目立つよ」
「おいおい、またこの不毛な会話か?」

 笑いながら私の隣に座り、ジョージ君はスライスされたパンに手を伸ばした。私も目の前に置いていたシリアルを食べ始めたけれど、あまりにもミルクを吸いすぎていて正直あまり美味しくなかった。ジョージ君と適当に会話を挟みつつ食事を進めていくと、またしても私の隣に誰かが座り、誰かと思って見れば今度はフレッド君だった。置いていくなんてひどいぜ相棒、なんてニヤニヤ笑いながら彼がそう言うと片割れの方は起こしても寝てたのはフレッドの方だ、なんてパンの食べかすを唇の端に付けながらいうものだから思わず笑ってしまった。私には兄弟どころか肉親が居ないから、兄がいたらこんな感じなんだろうか。一人クスクス笑っていると両隣から不審そうな視線を感じ、一人で意味も分からず笑ってる変な子と捉えられていた。

「二人とも、ほんと仲いいね」
「「そりゃあ双子だしな」」
「あと、二人に挟まれて食べると注目浴びるね。」

 私がそう言うと、フレッド君もジョージ君も辺りを一二回キョロキョロ見回し、声を揃えて確かに、と呟いた。

「このタイミングで言うということは、ナマエ嬢は僕らに離れて欲しい訳だ」
「うっ、まぁ、できれば……」

 ただでさえ自分の容姿が目立つのに、色々な意味で目立つ彼らに挟まれれば注目の的になるのは致し方ないだろう。あまり人から視線を送られるのにいい思い出が無い私にとって、ある意味耐え難い苦痛なのだけど昔ほど嫌とは感じていないのは両隣にいるのこの愉快な双子のおかげだろう。それでもやっぱり視線が痛いからフレッド君のお言葉に続いて本心を言うと、二人はあからさまに肩を落としてため息をついた。そりゃあもうわざとなんじゃないかと思うほどに大きな大きなため息を。

「おい相棒聞いたか?」
「聞いた聞いた。ナマエはオレらに隣に座られるのは嫌だとよ」
「ちょっ、そんな事っ!」
「俺にはそう聞こえたぜ?」

 からかわれている。一瞬でそう自覚した。なぜならこの手のいじめは昔から幾度となく受けてきて、この話し方も何もかもそれと瓜二つだった。この双子がいじめっ子気質ではないのは直感的にわかるけれど、それでもこの雰囲気を嫌と思ってしまうのも私の直感だ。嫌な思い出が頭の中を通り過ぎ、壊れたフィルムの様にとめどなく流れてくる。これ以上ここにいることなんてできなくて、大きな音を立てて椅子から立ち上がれば泣き真似をしていた双子も何事かと思ってそのマネをやめた。必死に泣かないように奥歯をかみしめている私の顔はきっとひどく歪んでいるんだろう。私が怒っている事に気づいた二人が私の手をつかんだけれど、それはとても弱い力で私でも簡単に振り払う事が出来た。二人が私を呼び止める声は周りの喧騒で聞こえなかったのに、スリザリンの生徒がまた私を幽霊と呼んだ、その声だけは拾ってしまう自分に対しても悔しくて。行き場のない感情をどこにぶつけていいのか分からずにただひたすら寮を目指すだけだった。

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