★(if)5-3.弱いのに強い人間のように振舞って

 第一の課題が終わると、ハリーに対しての向かい風が大分弱まった気がする。ハリーのドラゴンとの戦いをたたえて、グリフィンドールの談話室ではたくさんの食べ物を用いてお祭り騒ぎだ。双子に抱えられて、ハリーが手に入れた金のたまごを開くと途端に信じられないくらいの騒音が響く。驚いたフレッドもジョージも手を話してしまい、鈍い音をたててハリーは床に落ちてしまった。かわいそうに。
 それにどうやらロンとも仲直りしたみたいで、安堵しているハーマイオニーがいた。やっぱり、ハリーのそばにはあの二人がいないとこっちだって落ち着かない。あとは彼がどうにかして金のたまごの謎を解くだけだと思っていたのに、またしても、そして今度は彼だけじゃなく全校生徒に問題が突きつけられた。


***


 マクゴナガル先生にダンスパーティの話を聞いて、まっ先に思い出したのは学校が始まる前にいただいたドレスの事だった。なるほど、これのためのものだったのか。納得して、それから相手をどうするかの思考に至った。もちろん、曲がりなりにも私はジョージと付き合っているわけだから、相手に困ることはないだろう。そう思って授業が終わるとすぐに彼に話しかけに行こうとしたのに、それより早くジョージは女の子に囲まれてしまった。さすがは人気ものだ、彼女が居てもお構いなしに誘われる。だけど苦笑いを浮かべつつ断っていることに安心して、私は大広間への足取りを進めた。まあ話しかけるチャンスはいつでもあるから、今じゃなくてもいいだろう。

 だけど、まさか私にダンスパーティの相手を申し込む人がいるとは思っていなかった。人生で一度だけ、あのレイブンクローの生徒から好意を寄せられた事はあったけれど、それ以来そんな経験の無い私からしたら予想外以外のなにものでもない。丁重にお断りすれば、ハッフルパフの人は少し残念そうにしていた。罪悪感はあるけれど、まさかジョージ以外と約束を取り付ける訳にもいかない。

「あなたとジョージが付き合ってるって、結構有名なのにね」
「ね、世の中にはもの好きな人もいるんだね」

 アンジェリーナを会話をしながら大広間で夕食を済ませて、寮へ向かっていると知らない声に呼ばれて私もアンジェリーナも足を止めた。名前を呼ばれた訳じゃないけれど、そこのプラチナブロンドの人、と呼ばれてしまったからにはきっと私だろう。アンジェリーナは気を使って先に行ってしまったけれど、知らない人と二人きりにされても正直困ってしまう。しかも、相手はダームストラングの生徒だ、制服を見ればすぐに分かる。

「君、僕と一緒にダンスパーティいかない?」
「……え?」
「ここに来てから、ずっと君のこと気になってたんだ」
「……はあ」

 頭が真っ白になる、ここまでストレートに好意を寄せられるとは思っていなかった。両肩を掴まれて、あまりの迫力に思考が飛ぶ。まさか一目惚れされていたなんて。よく分からない返事しかできなくて、でも期待させてはいけないと思って丁重に誘いを断ればどうしてなのかと事情を聞かれた。

「あの、私付き合ってる人がいるから……」

 やんわりと右肩に置かれた手を振り払ったけれど、引いてくれる気はないみたい。肩に加わる力が強くなって、苦痛に顔を歪めていると私の名前を呼ぶ声が聞こえた。こんなタイミングだからジョージを期待したけれど、そこにいたのはセドリックだった。さすがに代表生徒が出てくると気が引けたのか、ダームストラングの彼は気まずそうにその場を去る。

「大丈夫かい?」
「ええ、ありがとう……」

 初めてのことで少し怖かったのだけど、セドリックの声は私をとても安心させた。私を気遣ってわざわざ寮まで送ってくれて、太った婦人に合い言葉を告げ中に入る。まだ落ち着かない心臓をなだめるように深呼吸して、談話室をぐるりと見渡せばジョージとフレッドがなにやら羊皮紙を広げている。ジョージ、と名前を呼べばいつもは笑顔で返してくれるのに、今日はそれが無かった。不審に思いつつも、横に腰掛けるとやっぱり目を合わせてくれない。

「あ、あのね、ダンスパーティの事なんだけど」
「ダームストラングのやつと行くの?」

 その問いに、私だけじゃなくてフレッドも驚いていた。どうしてそんなこと言うんだろう。そんな疑問の次に、さっきの廊下でのやりとりを思い出す。

「まさか、見てたの?見てて助けてくれなかったの!?」
「セドリックが助けてくれたんだろ」
「ジョージの方が良かった!」

 いつもは絶対に言わないであろう事を、惜しげもなく伝えたにも関わらずジョージの視線は相も変わらず羊皮紙に釘付けだ。

「あんな不躾な人と行く予定ないわよ!」
「そうじゃなくても、ナマエは人気だから相手なんてすぐ見つかるだろ」
「言いたいことがあるならはっきり言ってよ!」

 机を思い切り叩いて立ち上がれば、見てみぬふりをしていた周りの寮生達の視線を集めた。どうして、こんなこと言われなきゃいけないんだろう。さっきのこともあって、だんだん涙腺が緩み始めた頃にジョージがとどめの一言を言い放つ。

「俺、ナマエとは行かない」

 滲みそうになってた涙すら引くほど、正常な思考回路を保てなくなるほど、衝撃を受けた。だって、私とジョージは付き合ってるんだから、ダンスパーティだって、一緒に行くものだと思ってた。文句の一つや二つ言いたいはずなのに、喉が震えて何も言えなかった。フレッドに引き止められたけど足を止めずに階段を駆け上がる。ドアを雑に開けて部屋に入るなりアンジェリーナにどうかしたのかと聞かれたけれど、言葉にしたら泣いてしまいそうだった。自暴自棄になってシャワーを浴びて、泣きたくなかったのに流れる涙を水に流すことしか出来なかった。

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