★3-5.大丈夫、まだ僕は、笑ってる

「うー……」

 体の節々が痛くて目を覚ます。そういえば、昨日夜中に起きてここで寝ちゃったんだっけ。寄りかかっていた方を見ればまだジョージは夢の中で、今何時なんだろうと思い時計を見ると衝撃的な数字を指していた。12時。もう昼食の時間だ。だけど、それ以上に今日は大切な日だった。

 初めてのホグズミード行きの日。私はどうせ行けなかったけれど、ジョージは約束している相手がいたはずだ。急いでジョージを現実に引き戻そうと肩を強く揺する。微妙に寝ぼけている彼にホグズミードは!?とまくし立てて言ったけれどあまり理解していないみたい。

「行かなくていいの!?」
「それはもうフレッドに頼んだ……」
「まさか、入れ替わりとか」
「違うよ、断っといてって」

 目をごしごし擦ってあくびをして体を伸ばす。目の前のジョージがあまりにもマイペースすぎて私は言葉を失った。とりあえず、彼は私が起きる前に一度起きたということだろうか。大声を出したから談話室にいる数人の後輩から視線を浴びていたけれど、そんなものも気にならなかった。なんで断ったかなんて、決まってる。私の面倒をみていたからだ。なんだか語弊のある言い方だけど良い表現が見当たらなかった。
 悪戯好きの騒がしい人だけれど、病気の人が横で寝ていて放っておけるほどひどい人じゃないことくらい知っている。初めての外出なのに、なんて事をしてしまったんだろう。かすかに痛む頭も喉も気にならないくらい、私は混乱していた。どう謝っていいいのかも分からない。ジョージと目線を合わせないようにしておろおろしていると、彼の両手が私の肩を掴んで、何事かと思って顔を上げるとおでことおでこをぶつけられた。コツン、なんて生易しいものじゃない。いわゆる頭突きだった。

「ぎゃっ!」
「かわいくねー悲鳴!」
「な、何するの!?」
「俺がしたくてやったんだから気にすんな、ナマエのくせに生意気だぞ」

 私のくせに、なんて意味が分からない。まだジンジン痛む額をおさえて、調子は?と深夜と同じトーンで聞かれた。もう大丈夫だよ、と答えれば早速とでも言うように右の手首を掴まれて、どうやら大広間に連れて行かれるみたいだ。そういえば、昨日はサラダくらいしかまともに食べてないからお腹がすいた。広間に着くまで、お腹が鳴らないでくれるといいんだけど。やっぱり皆ホグズミードに行っているからか知り合いは全然いない。いるのは後輩くらいだ。

「……ねぇ」
「あー?」

 話しかけたタイミングが悪かった。ジョージはサンドウィッチを今まさに口にも売り込もうとしている。ごめん。

「結局、何でわざわざ残ったの?」
「何?俺が行ってもよかったわけ?ナマエぜってー悲しむだろ」
「うっ、うるさいなぁ」

 あながち間違いではないので反論もできない。だけど、一緒に行く約束まで取り付けているのにそれを優先しないのはどうなんだろう。あまりいい気はしない。

「女の子、かわいそうだよ」
「ナマエといる方が数倍楽しい」

 狙ったわけでもないジョージの言葉に、赤くなるどころか何も言い返せなかった。驚き、この感情が今脳内の9割を占めていると言ってもいいだろう。嬉しいけど、ものすごく嬉しいけど、勘違いしそうで恐い。

「あ、ジョージ、あのね、私」
「ナマエ!体調はどう?」
「ハーマイオニー、それに、二人も……」

 ハーマイオニーが走って私の隣へやってくると、遅れてハリーとロンもやってきた。ロンはジョージの隣、ハリーはハーマイオニーの横に座ると楽しそうに会話に花を咲かせ始める。ジョージがロンにパイを進めているけど、きっとろくでもないものなんだろう。私以上に付き合いが長いロンはもちろんそれを分かっているみたいで、口に含むどころかちっとももらおうとしていない。

「ジョージ、今日はロンに何をしようとしたの?」
「なぁに、顔におできができるだけさ」
「あら、そういうのはスリザリンの誰かにあげたらいいんじゃないかしら?」

 目を細めてハーマイオニーはそう言って、顎でスリザリンのテーブルをさした。釣られてそちらに視線をやると、列車で私に喧嘩を売ってきた男の子と目があった。両脇に子分の様な二人を連れて、いかにも自慢話をしていましたとでも言うような表情だ。別にスリザリンという理由で差別するわけじゃないけれど、きっと私は彼と一生気が合わないだろう。
 料理を食べ終え、ハリー達にこのあとはどうするのかと聞くと、彼らは図書館へいくらしい。ほとんど後輩しかいないこのホグワーツの中で、なぜだか私とジョージだけが異質な存在に見えた。ジョージに私たちはどうする?と聞くと、彼にしては珍しくすぐに案が飛んでこなかった。

「寮もどるか」
「えっ?」
「ナマエまだ具合悪いんだろ?」

 あぁもう、どうしてそんなに気が利くの。いつもは人の迷惑なんて考えないで悪戯したり誘ったりしてくるのに。人間弱ってる時が一番気持ちが傾きやすいんだから。
 目の前の人物の後ろ姿が妙に愛しくて、皆がホグズミードから帰ってくるまではこの人を独占できる。それがとても嬉しくて、この気持ちが友達への依存でないことはもう明らかだった。

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