★2-1.届かない桜の花

「ここ良いかな?」
「あ、どうぞ!」

 キングス・クロス駅でホグワーツ行きの特急に乗って、残念ながら人が多すぎてフレッドやジョージを探すのは断念してしまい現在コンパートメントでは一人寂しく読書をしていた。けれど、扉がノックされて音のした方に目をやると、眉をさげて、しかし整った顔は崩さずにそこにセドリック・ディゴリーがいた。もちろん迷惑でもなんでもないので前の席を進めて、彼は会釈をして私の真正面に座った。あらためて見なくても整ったその顔はあの双子とは別の感じだった。その顔と好青年ぶりから、違う寮の子からも人気があり、あまりそういう話に詳しくない私でも彼の名前と顔は知っている。それくらいの有名人だ。そういえば、セドリックも箒に乗るのが上手だった気がする。

「僕の顔に何かついてる?」
「あ、ごめんなさい!」
「いや、気にしてないよ」
「そういえば自己紹介してなかったわね、私は――――」

 そこまで言って、彼が私のフルネームを紡いだ。彼の様な有名人ならともかく、どうして私の名前を知っているんだろう。寮だって違うのに。訝しげな視線を送ると、一度笑ってから私の目をしっかり見据えてまた言葉を続ける。

「割とウィーズリー達と一緒にいるだろ。君も結構有名だよ」
「……わっ、私はあの二人みたいに悪戯はしてません!」
「わっ、落ち着いて、わかってるよ」

 さすがにその誤解はそのままにしておくわけにいかない。私まで不真面目な生徒だと思われたらやばい。とっさに思考が脳内をめぐり、なんとか誤解を解こうと急に立ち上がった私に彼は慌てて否定の言葉を発した。とりあえず席に座り直し、彼の話を聞くと別に私が悪戯をするという噂は流れていないようだ。安心して一息つくと、彼も笑って話を続けた。

「あの双子と一緒に居るからどんな人かと思ったけど、普通の人なんだね」
「それって、どうとっていいのかしら?」
「褒め言葉かな」

 私にとっては褒め言葉な気もするけれど、フレッドとジョージが聞いたら反論しそうだ。いや、あの二人は普通じゃないけれど。

「「ナマエ!やっと見つけた!」」
「あら、フレッドにジョージ」
「噂をすればなんとやら、だな」

 コンパートメントの扉を開けて急に入ってきた双子は、何も言わずに空いてる二人分の席に座った。セドリックの隣がフレッドで、私の隣がジョージ。セドリックはちゃんとノックして入ってきたのにこの二人ときたら、とため息をついた。

「二人でなーにしてたんだ?」
「別におしゃべりしてただけじゃない」
「下心は?」
「あるわけないでしょ」

 ナマエはわかってないなぁ。
 男は時として狼になるんだぜ。

 双子の会話を適当に流しつつ、狼の鳴き真似を始めたあたりでちょっと煩わしく感じて、とりあえず隣に座っていたジョージの脇腹にひじ打ちを決めてみた。

「ミョウジは表情がくるくる変わるな」
「そうかしら?」
「二人と話してると楽しそうに笑うから」

 まぁ確かに、この二人といると自分では想像のつかないことを言い出したりやりだしたりするから退屈はしないからそれは言えてるかもしれない。だけど、かといってこの二人以外は楽しくないかと聞かれたら私は全力で首を横に振って、NOという答えを何回も言うだろう。この二人にはこの二人の、他の人には他の人の楽しさがある。

「セドリックと話すのだってもちろん楽しいよ」

 瞬間、コンパートメント内が一気に静まり返った。さっきまで斜め前で行われていたフレッドの狼のモノマネ大会もピタリと止んだ。しまいにはセドリックまで固まっている。

「え、え?私なんか変なこと言った?」
「「言った」」
「えぇ!?」

 セドリックは気にしなくていいと思うよ、なんてフォローを入れてくれたけれど、結局何がなんだかさっぱり分からないままホグワーツに向かうのだった。

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