★イースとあるさむい日のこと 「えぇっ、会議のまとめ残ってやるの!?」 「うん」 「やだやだやだやだ、寒いじゃん暗くなるじゃん寒いじゃん! 帰りたいよおおお」 「うるさいんだけど」 泣いてイースにすがりついたが、バコッと手元の資料を丸めて叩かれた。どうやら、家に仕事を持って帰るのが嫌だそうだ。 「うぅ、イースのばかぁ、風邪引いて寝込んじゃえ」 「そしたら仕事はぜんぶなまえに任せるね」 「やだー! うわーーーん!!」 無表情でペンを動かしながら、私の文句を軽く流していく。これだけわめいてもこの態度というこもは、もう抵抗もムダなんだろう。しぶしぶ胸ポケットからお気に入りのボールペンを取り出して、イースに回された仕事をこなす。っていってもほんとうにほんとおおおおおに簡単なものばっかり。もしかしてバカにされてる? 「なまえ、記入欄1個ずつずれてるよ」 「うそ!」 「ほんと」 「うわぁぁあん、もうやだ、帰るー!」 「うるさい……。もう寝てて良いよ」 駄々をこねて机に突っ伏しても、ペシンと頭を叩かれる。痛いじゃん! そう言ってもシカト。なによう、もういい。本当に寝てやるもんね! 「……ちょっと、早く起きて」 「いたっ!」 寝る前にくらったのより、もっと強い。強烈な痛みに驚いて伏した顔をあげると、眉間にシワを寄せた愛しのイース。わあ、怒ってる! 「帰るよ」 「うん、お疲れさま!」 イースが怒ってるからって、別に慌てるわけじゃない。だって彼はいつもぶすっとしてるんだもの! 気にしてたらキリがない。勢いよく机に腕を突っぱねて立ち上がると、イスが転がるのと一緒に、私のじゃないコートが床に落ちる。誰のって、イース以外にありえない。 「これ」 「ちょっと、早く返して」 「ふふ、うん、ありがとね!」 「ほら! やっぱり! 雪降ってるよ寒いよむしろ痛いよおお!」 「うるさい」 そっけなく前を歩くイースの手。むき出しで、歩く振動と一緒にぶらぶらさせている。気になって掴んでみると、予想に反して温かい。少なくとも、体温は私よりも上だった。 「あったかーい」 「なに」 「イースって体温高かったっけ。こども体温になった?」 「え、意味分かんない」 イースの手を自分の頬にもっていくと、思いっきり手を離される。うう、返せ私の天然ほっかいろ。 「さーむーいー!」 「なまえのほっぺ触ってる方がさむい」 「イースのばか、おに、あくま!」 「あー、もう! 早くしてよ、僕だってさむいんだから!」 グイッと、自分から振り払った手を繋がれる。というよりは腕を掴まれるの方が正しい気がするけど。さむさのせいだけじゃない真っ赤なイースの頬を見たら、黙っておいてあげようかな、なんて。 「ねえイース、手。ちゃんとつないでいい?」 「……勝手にしなよ」 「うふふ、ありがとぉ」 ほんと、素直じゃないなぁ。そっけないけど、まんざらでもないくせに。素直じゃないイースのために、私は遠慮せずに甘えさせてもらう。これが、私達の日常だった。 ★戻る HOME>TEXT(etc)>>イースとあるさむい日のこと |