★イースとあるさむい日のこと

「えぇっ、会議のまとめ残ってやるの!?」
「うん」
「やだやだやだやだ、寒いじゃん暗くなるじゃん寒いじゃん! 帰りたいよおおお」
「うるさいんだけど」

 泣いてイースにすがりついたが、バコッと手元の資料を丸めて叩かれた。どうやら、家に仕事を持って帰るのが嫌だそうだ。

「うぅ、イースのばかぁ、風邪引いて寝込んじゃえ」
「そしたら仕事はぜんぶなまえに任せるね」
「やだー! うわーーーん!!」

 無表情でペンを動かしながら、私の文句を軽く流していく。これだけわめいてもこの態度というこもは、もう抵抗もムダなんだろう。しぶしぶ胸ポケットからお気に入りのボールペンを取り出して、イースに回された仕事をこなす。っていってもほんとうにほんとおおおおおに簡単なものばっかり。もしかしてバカにされてる?

「なまえ、記入欄1個ずつずれてるよ」
「うそ!」
「ほんと」
「うわぁぁあん、もうやだ、帰るー!」
「うるさい……。もう寝てて良いよ」

 駄々をこねて机に突っ伏しても、ペシンと頭を叩かれる。痛いじゃん! そう言ってもシカト。なによう、もういい。本当に寝てやるもんね!


* * *


「……ちょっと、早く起きて」
「いたっ!」

 寝る前にくらったのより、もっと強い。強烈な痛みに驚いて伏した顔をあげると、眉間にシワを寄せた愛しのイース。わあ、怒ってる!

「帰るよ」
「うん、お疲れさま!」

 イースが怒ってるからって、別に慌てるわけじゃない。だって彼はいつもぶすっとしてるんだもの! 気にしてたらキリがない。勢いよく机に腕を突っぱねて立ち上がると、イスが転がるのと一緒に、私のじゃないコートが床に落ちる。誰のって、イース以外にありえない。

「これ」
「ちょっと、早く返して」
「ふふ、うん、ありがとね!」



「ほら! やっぱり! 雪降ってるよ寒いよむしろ痛いよおお!」
「うるさい」

 そっけなく前を歩くイースの手。むき出しで、歩く振動と一緒にぶらぶらさせている。気になって掴んでみると、予想に反して温かい。少なくとも、体温は私よりも上だった。

「あったかーい」
「なに」
「イースって体温高かったっけ。こども体温になった?」
「え、意味分かんない」

 イースの手を自分の頬にもっていくと、思いっきり手を離される。うう、返せ私の天然ほっかいろ。

「さーむーいー!」
「なまえのほっぺ触ってる方がさむい」
「イースのばか、おに、あくま!」
「あー、もう! 早くしてよ、僕だってさむいんだから!」

 グイッと、自分から振り払った手を繋がれる。というよりは腕を掴まれるの方が正しい気がするけど。さむさのせいだけじゃない真っ赤なイースの頬を見たら、黙っておいてあげようかな、なんて。

「ねえイース、手。ちゃんとつないでいい?」
「……勝手にしなよ」
「うふふ、ありがとぉ」

 ほんと、素直じゃないなぁ。そっけないけど、まんざらでもないくせに。素直じゃないイースのために、私は遠慮せずに甘えさせてもらう。これが、私達の日常だった。

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